ジャッキー・チェンはいつだって“何か”を仕掛けてくる! 『ザ・フォーリナー』は新たな代表作に

シリアスなジャッキー・チェンの魅力

 ここでジャッキーのキャリアをザックリ振り返ってみよう。ジャッキーがこうしたシリアス路線にチャレンジするのは、本作が初めてではない。本格的にコメディ路線を打ち出す前のキャリア初期や、伝説の超大物ジミー・ウォング先輩に“借り”を返すために出た『炎の大捜査線』(1991年)以外にも、自主的にシリアス路線の作品に出ている。サモ・ハンと兄弟役を演じた『ファースト・ミッション』(1985年)のホロ苦い結末や、犯罪アクションの傑作『野獣特捜隊』(1995年)を手がけたカーク・ウォン監督と組んだ『新ポリス・ストーリー』(1993年)も忘れ難い。ただ、こうした80~90年代の作品は、ジャッキー自身がバリバリ現役だったため、どうもシックリこないと言うか、子どもの頃の私は「なんか普段のジャッキー映画と違うなぁ」程度の漠然とした違いしか感じていなかった(今になってキャリアを俯瞰してみると、明らかに異色作なのだが)。しかし、2000年代になってくると、さすがにジャッキーも体力の衰えが見え始め、アクション以外で魅せる作品を模索し始める。その過程で放たれた快作が『新宿インシデント』(2009年)。タイトル通り日本の新宿を舞台に、ヤクザや中国人マフィアたちの抗争を描いたヴァイオレンス・ノワールである。ここでジャッキーは功夫を封印、裏家業に手を染めていく平凡な男を熱演した。映画自体は興行的に振るわなかったものの、新宿駅前の路上で黙々とメシを食うジャッキーには、それまでになかった「老い」と「哀愁」があった。

 そして2010年代、ジャッキーは『ベスト・キッド』(2010年)で哀しい過去を持つ師匠役や、傑作『新少林寺/SHAOLIN』(2011年)では脇役に徹し、いずれも渋い魅力を放っていた。辛亥革命を題材にした歴史大作『1911』(2011年)などは、80~90年代のジャッキーでは出演が考えられなかったタイプの作品だろう(ジャッキーが「映画を救うんだ!」と思ったのか、明らかに追加撮影っぽい格闘アクションがあるのはご愛敬)。しかし、こうした「老い」を意識した作品に出演する一方、昔からの「ジャッキー映画」ノリの映画も作り続けており、そちらでは普通に若々しい役を演じている。そのせいか、実年齢が謎めき始めていたというか、ある種の「ねじれ」が起きていたわけだが……この「ねじれ」を解消したのが、「老い」と「アクション」を上手く両立させた『ザ・フォーリナー』である。

 個人的に、今後のジャッキーには本作のような路線を期待したいところだが……なかなか、そうもいかないのがジャッキーという男である。しばらくは若々しい役と老人の役を交互に演じていくだろう。もう若い頃のような無茶はできないし、すべてが上手くいくとも思えない。しかし、ジャッキーはいつだって「何か」を仕掛けてくる。これからも、その「何か」を期待して、ジャッキー映画を見守っていきたい。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『ザ・フォーリナー/復讐者』
全国公開中
出演:ジャッキー・チェン、ピアース・ブロスナン
監督:マーティン・キャンベル
脚本:デヴィッド・マルコーニ
製作:ジャッキー・チェン、ウェイン・マーク・ゴッドフリー、アーサー・M・サルキシアン、ケイ・キン・ハン、クレア・カップチャック、ジョン・ゼン、スコット・ランプキン、ジェイミー・マーシャル、キャシー・シュルツマン
音楽:クリフ・マルティネス
配給:ツイン
(c)2017 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION STX FINANCING, LLC WANDA MEDIA CO., LTD.SPARKLE ROLL CULTURE & ENTERTAINMENT DEVELOPMENT LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://the-foreigner.jp/

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