坂元裕二『最高の離婚』のパロディも 『離婚なふたり』は軽妙なテンポで進む、新しい離婚劇に
離婚というと、悲痛な別れや浮気や不倫といったドロドロの愛憎劇が定番だが、それがリアルな現実を捉えているとは限らない。本作では「涙」は登場しない。特にこれといった離婚の理由はなく、あるといえばあるし、ないといえばない。なんとなく合わないから別れる。「離婚」というイベントに、身を切り裂かれるような悲しみが存在していなければならないというルールはない。法的な結婚があまりにも規範化している日本社会への、一つのアンチテーゼとも捉えられる(もちろん現実の日本社会においては、経済的、社会的な様々な理由により、女性の側が「離婚できない状況」に置かれている点も見逃してはならない)。
とはいえ、そのような「離婚」をテレビドラマで描くのは、とても難しい。視聴者を引きつけるには、「ドラマ」が乏しいからだ。だが本作ではそれを、様々な形で克服しようと試みる。まず、隆介と今日子の会話のテンポが良い。主演のリリー・フランキーと小林聡美の夫婦役が好キャスティングだ。離婚というシリアスな場面でありながら、それを感じさせない。口喧嘩は絶えないが、それは長い時間を(望まない形であれ)過ごした形跡が感じられもする。他人だけど他人じゃない。お互いの迷いと苛立ちが交差し絡み合う。
また、ところどころに登場する台詞に、ハッとさせられるものが多い。「別れると決めたら旦那は荷物」、離婚を切り出したのは「なんとなく今だって思っちゃった」から。別れを決めた理由は「焼きそばだけど焼きそばじゃない」。平易な言葉も組み合わせ次第だ。
ちなみに本作は、2013年フジテレビ系放送の、坂元裕二作『最高の離婚』を強く意識して作られているが、それを作中におおっぴらに宣言するところも面白い。坂元の名前が度々登場し、前編のラストシーンでの隆介の回想で登場する「なぜだろう。別れたら好きになる」は、同作のコピーそのものであり、そのことも隆介の口から語られる。この辺りの細かい仕掛けは、ドラマ好きをくすぐる。また本作は『桐島、部活やめるってよ』を手がけた吉田大八の、スペシャルドラマ初演出作品でもある。きめ細かな演出やテンポ良い展開は健在であり、その辺りも見どころの一つだ。
4月12日放送の後編では、いよいよ堂島が隆介の前に現れ、隆介はいよいよ追い込まれて行くようだ。「理想の夫婦を描き続けた人気脚本家」は自らの夫婦関係に、どのようなエンディングを用意するのだろうか。
■エオミナカヒサ
ミレニアル世代。政治・社会情勢を踏まえた映画・ドラマ評論が得意。取材、レポート記事なども執筆。大の読書家。
■放送情報
『離婚なふたり』テレビ朝日系で2週連続放送(※一部地域を除く)
前編:4月5日(金)夜11:15 ~ 深夜 0:15
後編:4月12日(金)夜11:15 ~ 深夜 0:15
出演者:リリー・フランキー、小林聡美、岡田将生、酒井若菜、中村有志、渡辺真起子、峯岸みなみ、小澤征悦、松本まりか
原案・脚本:樋口卓治
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー;服部宣之(テレビ朝日)、関谷正征(ファーストカット)
監督:吉田大八
制作協力:ファーストカット
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/drama-rikon/