『PRINCE OF LEGEND』公開記念企画
『PRINCE OF LEGEND』評論家対談【前編】 「“王子が大渋滞”は現代を象徴するフレーズ」
イケメンであることが競技になる
西森:あと、王子様を演じるのって、男の子の年代によっては嫌だと思うんです。やっぱり、「壁ドンなんてやってられるか!」的な拒否反応があるんじゃないかと。「なぜ壁ドンをしたくないか」と考えると、壁ドンって本来は、何か言いたいのにうまく言えずにもどかしくて、思わずドンっとやってしまったとか、そういう物語性があって。その感情を乗せながら演技でやるのなら、違和感はないと思うんです。でも今はその物語と切り離された形骸化した「壁ドン」ばかりになってきていて、女の子の胸キュンのスイッチが入るから、さあ早く今すぐ壁ドンしてくれ、という状態になっているんじゃないかと。
成馬:イケメンだということを「消費されるのは嫌だ」ってことですよね。
西森:そうです、王子側の主体性が奪われてしまっているというか。でも、それをあえてやってみようというのが『プリレジェ』なんだと思います。女の子の願望に寄り添って、男の子がおもてなしをする。『プリレジェ』は作品のプロモーションまで、その世界の中の人としてやっているのが面白くて。こんなに生き生きと彼らがプロモーションをやれるのは、プロモーションもあくまで映画と地続きで、虚構の世界としてのサービスだからではないかと。「片寄涼太」ではなく、「奏様」でいられるからなんじゃないかと思うんです。他のアイドルだったら「本人」としてやらないといけないんだろうけど、LDHは一大プロジェクトだから、「本人」ではないところでやれるんじゃないかと。
成馬:「イケメンオリンピック」みたいな感じですよね。イケメンであることがスポーツの競技みたいになっている。劇中の「伝説の王子選手権」でも、壁ドンはこの角度がベストとか、変顔はこれをやるといいとか、勝利のための創意工夫があるじゃないですか。
西森:確かに、映画の中でも、みんな事前に壁ドンの練習をしてますからね。王子選手権での動画の撮影もゲームみたいな主観映像になっていますよね。
成馬:「伝説の王子選手権」では、女の子の頭についているカメラに映るイケメンの姿がかっこよければポイントが入るのですが、デートをしている時の音や他の女の子の姿はスクリーンには映らない主観映像になる。乙女ゲーム的な演出だと思うのですが、あのシーンは、キラキラ映画やイケメンドラマのヒロインってこういう存在だよっていうネタバラシになっていると思います。逆に言うと、イケメンを楽しむためのキラキラ映画で、ヒロインの存在が変に主張されると、見ている側も困るわけですよね。そのヒロインがやたらと主人公のイケメンと仲良くなりすぎてイチャイチャされても、視聴者からすると「お前じゃないんだよ!」って気持ちになってしまうので(笑)。だから、果音が王子様全員を拒絶しながらも、視聴者にとっては主観映像のインターフェースであり続けているという構造は画期的だと感じました。
白石聖演じる果音は、観客と同化できる特殊なキャラクター
成馬:同じく片寄涼太さんが主演で、『プリレジェ』と制作陣が同じ『兄に愛されすぎて困ってます』もコンセプトは似てるんですよ。片寄さんは、土屋太鳳演じるヒロイン・せとかを溺愛してる血の繋がらない兄・はるかの役を演じています。ドラマ版では、せとかの前に、次から次へと王子様的なイケメンが登場して、映画版で誰を選ぶかが明かされる。せとかは、自分で「恋愛体質」って言っちゃってるんだけど(笑)、次から次に出てくるイケメンを、自分から好きになっちゃうんですよね。そんなせとかを悪い男から守るという名目で片寄さんが演じる過保護なお兄さんが邪魔するのが物語の面白さとなっていた。実は『兄こま』でも、イケメンドラマの相対化はすでにやっていて、「今どき壁ドンかよ」みたいなセリフもあるんですよ。今思うと『兄こま』が発表された2017年の時点でイケメンドラマはすでに飽和状態だった。それから次に行く時にどうアップデートしていくかという問題意識が、『プリレジェ』には表れているなと。
西森:せとかより、果音のほうが自分を投影しやすいということですよね。女子の消費欲求にあわせて、あえて主張させず、他の誰か、ゲームのユーザーのような目線で見ている観客の女の子たちと同化できるキャラクターになることに意味がある。個としての不在感によって果音に共感できるし、ゲームっぽくなるんですよね。ただ、それで果音ちゃんが女性としてちゃんと描かれていないというのはまた違うと思っていて、言うべきところでは言うんですよね。そのことでも共感できるキャラクターになっていて。ゲーム原作の舞台とかでも、ユーザーはヒロインだけれど、それを舞台化、映像化する時に、どういう存在にするのかっていうのは、いろいろ試行錯誤しているのを見たことがあります。
成馬:最近のキラキラ映画のヒロインは、中条あやみや小松菜奈のような線の細い女優が起用されてますよね。いい意味でお人形さんになることができるモデル系の女優が求められているのだと思うのですが、白石聖の演技は、本人の資質なのかどうかわからないですけど、ちょっと人形みたいで、最初からあまり感情を出してないんですよね。“現実には存在しない幻想のヒロイン”みたいな女性をリアルな存在として演じるという、矛盾したことを具現化しているのがすごい。そうでありながらセリフには、イケメンドラマにおけるヒロイン像に対する異議申し立てが詰まっていて、メッセージはとても生々しい。果音が自ら「私、おまけみたいなものですから」と言ってましたけど、結果として、『プリレジェ』にはフェニミズム的アプローチが出てきちゃってるのが面白い。自分をゲームの駒にされるのを果音は嫌がっているし、かわいい姿も(学生映画における)演技に過ぎず、わざわざ、このかわいさは「お金をもらってやってるものなんだよ」って、繰り返し見せていて、ものすごいドライ。何より「男の妄想を押し付けないでくれます?」というセリフはショッキングでした。
西森:「果音が王子選手権の勝者にトロフィー的に選ばれる」ということを、どうにか否定してくれと思いながら見ていたんですけど、そこを「お金をもらっているから」で解決させたり、「男の妄想を押し付けるな」ということで回避していましたね。
※後編に続く
(取材・文=若田悠希)
■公開情報
『PRINCE OF LEGEND』
全国公開中
キャスト:
【チーム奏】片寄涼太、飯島寛騎、塩野瑛久
【チーム京極兄弟】鈴木伸之、川村壱馬
【チーム生徒会】佐野玲於、関口メンディー
【チームネクスト】吉野北人、藤原樹、長谷川慎
【チーム先生】町田啓太
【チーム3B】清原翔、遠藤史也、こだまたいち
【チーム理事長】加藤諒、大和孔太、白石聖
監督:守屋健太郎
脚本:松田裕子
音楽:中野雄太
主題歌:Piece of me/m-flo
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公式サイト:prince-of-legend.jp