『コーヒーが冷めないうちに』塚原あゆ子が語る、有村架純ら役者に対する“監督”としての努め
「老若男女のキャストを揃えることが重要だった」
ーー塚原さんは、これまでの作品で“新人”の方を起用している印象があります。『中学聖日記』の岡田健史さんは、本当にデビューでの大抜擢で、我々も強い印象を持ちました。
塚原:いろんな勉強をして俳優になるというルートがあるのはもちろんいいことなんですけど、自然にお芝居を始める人がいてもいい。いろんな出自の人がいて、いろんなお芝居のリズムがあっていいと思うので、ある日突然抜擢枠があるのも素敵なことかなと思いました。もちろん、やることになったら、私も必死でやるんですけど、岡田くんの場合は、それまでにやった稽古や経験の量では測れないものがあるなと思いました。
ーー最初は、岡田さんが大人っぽいという声もありましたが、最後になるにつれて、そういう声も少なくなって、「晶はこの人だ」と多くの人が感じたように思います。
塚原:最終的にスーツを着るまでということが決まっていたので、リアルな中学生というよりは……というのがあったんです。作品で本当に伝えたいことを伝えるために、全力でやったほうがいいと思うので、『中学聖日記』では、人が成長して、人が人を思い続けるということはなんぞや、というテーマをもとに考えました。そのことを伝えるためにベストな布陣はどういうことなのかと考えてキャスティングすることがいいと思っています。
ーー岡田さんに会って、ここがいいなと思ったところは?
塚原:普通なところがいいと思いました。岡田くん本人と役がリンクしそうだなと。みなさん才能を持っているので、本当はすべての人の才能が生かせたらいいんですけど、私が生かせるかどうかという意味での距離感が見えたというか。
ーーその意味では『コーヒーが冷めないうちに』にも、この作品なりのキャスティングがあったということでしょうか?
塚原:『コーヒーが冷めないうちに』は、広く多くの方に引っかかるポイントのある物語にしたかったので、老若男女のキャストを揃えることが重要だと思いました。いろんな年代の人を窓にして、その人たちも、ヒーローという感じではなく、どこにでもありそうな喫茶店にいる、どこにでもいそうな人、庶民的な感覚のある人を選びました。
ーーすでに人気のある俳優さんだけをキャスティングする場合もあれば、逆に、まったく知名度がなかった人が、ドラマや映画を通じて人気者になっていくということもあると思います。
塚原:急に名優は生まれるわけではないので、これから長い間演じ続ける俳優部の方を大事に育てられる場所を用意するのが監督の努めだなと思います。私自身もそんなにたくさんの人とご一緒できるとは思っていません。でも、例えば、伊藤健太郎くんが、おじいちゃん……って言っても私のほうが先に年を取りますけど(笑)、けっこうな年齢になったときに、一緒に歳を取っている監督になれたらいいなと思います。映画でよくある「〇〇組」みたいな、長く一緒にできる俳優さんが生まれる土俵が作れればいいなと思っています。人気のある役者さんを集めたからといって、いい作品が出来上がるわけではありませんし、観客にとっても、いろんな役者さんを観ることができた方がいいと思います。
ーー伊藤さんは、『コーヒーが冷めないうちに』の中ではアドリブが多かったと聞きました。
塚原:伊藤くんとは、ドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』で初めて一緒にお仕事をしました。その作品では、回想シーンでの演技だったんですが、そのときもほぼアドリブで。その立ち居振る舞いを見て、役をちゃんと飲み込めているなと思い、『コーヒーが冷めないうちに』にも出てもらったのですが、今回も期待以上でした。
ーー昨年は主演を務めたドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)もあり、伊藤健太郎さんの人気が右肩上がりです。次世代を担うスターになると期待しています。
塚原:そうなると思います。それに、伊藤くんにしても岡田くんにしても、作品を撮ったときと同じ演技、表情は数年後には絶対にできないので、1本1本が、メモリアルなものになるのかなと。特にラブストーリーは如実ですよね。伊藤くんが、『コーヒーが冷めないうちに』の中で、架純ちゃん演じる数と距離をはかりかねている顔とか、数がコーヒーを入れている姿を見て可愛いなと思ってる顔とか、あのときしかできないものだと思います。「可愛いと思ってる顔なんてできないよ」っていう自分の中のジレンマもあってのあの顔なんですけど、そういう顔が残るのがいいですよね。
ーーそういった瞬間も詰まっていると思うと、またBlu-ray&DVDで『コーヒーが冷めないうちに』を観る楽しみも増えそうですね。
塚原:ソフト化が決まったとき、また10年後に見返したら違う気持ちになるかもしれないなというのが、最初に思ったことでした。私自身も中学時代に観た映像はすごく覚えています。この映画も、10代で観て、また人生のステージが変わったときに観たら、違った視点で違うキャラクターにぐっときたり、自分の見方が変わったと思うきっかけになったり、そういう楽しみ方をしてもらえるんじゃないかなと。それがパッケージとして残ることの良さだと思います。