『みかづき』は高橋一生から見た“家族の物語”に 原作小説とドラマが異なる作風になった理由

吾郎と千明にとっての「家族の物語」

 ドラマ『みかづき』は、吾郎による「家族の物語。ラブストーリーだ」という宣言から始まる。吾郎と千明の塾の物語と絡まるように、2人と長女の蕗子(黒川芽以)、次女の蘭(大政絢)、三女の菜々美(桜井日奈子)の物語が進んでいく。

 吾郎は塾の子どもたちにも、自分の子どもたちにも優しい眼差しを注ぎながら、彼らの心に火を付けることを何よりも大事にしていた。第2話での勝見(勝矢)との会話では、自分のことをマッチに例えていた。たとえ自分が灰になろうと、子どもたちに火を付けて炎を残すことができれば、それは十分価値のある人生だと話している。

 第3話では、ワシリー・スホムリンスキーの本を書くために重要な示唆を与えてくれた一枝(壇蜜)に向かって「スホムリンスキーは子どもに対して強い信頼と寛容がある」と話していた。強い信頼と寛容は、吾郎の自分の子どもたちへの教育方針と重なる。頭ごなしに何かを命令することなく、子どもたちが自分から動くことを待つ。動けなければ火を付ける。吾郎は千明と対立して家を出てしまうが、その間さえも無為に過ごしてはいない。世界を旅してまわり、勉強することに意味を見いだせなかった菜々美の心に火を付ける材料にしてしまった。

 経営者として多忙を極め、「太陽も月も関係ないわ。時代は変わったの」と第3話で言ってのけた千明は、第4話で落ちこぼれの生徒たちを見て、子どもたちを救う無料の補習教室を始める決意をする。再び「月」の存在に立ち返り、同時に娘たちの関係も改善させていく。前に進もうとするあまり、自分の心からこぼれ落ちてしまった自分の子どもたちにもう一度目を向けていくことにしたのだ。

 「僕がやるべきことは子どもたちに良い点を取らせてあげることじゃない。子どもが生きていくための知恵知力をつけてあげることなんだ」

 吾郎の教育理念は、子育てをする親の心に響くはずだ。親は子どもより先に死ぬ。子どもはいずれ一人で生きていかなければならない。親は子どもに対して、生きるための知恵知力を授けることが何よりも大切になる。それを行うことが吾郎と千明にとっての「家族の物語」ということなのだろう。

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