『ラ・ラ・ランド』から『ファースト・マン』へ D・チャゼル監督が語る、宇宙環境の音づくり

 加えて、チャゼルは無謀な挑戦であるのに、何が彼らをそんなに焚きつけたのかに興味を持ったと言う。

 「とてつもない代償を払ってまで、なぜ未来へ向かったのかに僕は関心を持った。それを掘り下げることで道徳上の問いかけも生まれてくるように感じたからね。あとは、カプセルにベルトで固定して宇宙に行った宇宙飛行士と家族のヒロイズムを描きたかったんだ。『やあ、君は月に行った第1号に選ばれてラッキーだったね』と容易いことのように語られてきたけど、ニールはこれだけの代償があったからこそ真のヒーローになれたと思うんだ」

 『セッション』『ラ・ラ・ランド』の音楽映画で名を馳せてきたチャゼルにとって、伝記映画は本作が初。だが、音楽映画を手掛けてきた経験があるからこそ、『ファースト・マン』は宇宙空間の“無音”の演出が効いていると感じられる。チャゼルは音響について、「非常に素晴らしかった。才能あふれる人たちと仕事ができた」と満足げに語った。

 「『セッション』『ラ・ラ・ランド』からずっと音楽を手掛けているジャスティン・ハーウィッツに携わってもらった。また、『ラ・ラ・ランド』でも一緒だったアイ=リン・リーとミルドレッド・イアットルー・モーガンが音響を作ってくれた。特にアイ=リンは、発射音や船内の音を録音してきて、サウンドスケープ全体の音の環境を作っていってくれたよ」

 軽快なジャズが鳴り響く過去作から、音のない世界が広がる宇宙へ。その長旅に、チャゼルは信頼の置けるチームと出発した。編集作業は、これまでもチャゼル作品に関わったトム・クロスが担ったという。

 「トム・クロスが編集室で、無音にすべきところと、音を付ける箇所を熟考してくれた。意図としては、音の大小で宇宙の極端さを表現したかったんだ。アポロ計画では、サターンVというロケットを使用していたんだけど、それは核爆発と同じくらいの音で、人類史上最も大きい音をたてるものとして知られている。僕は、極端に大きな音と宇宙の無音の対比が面白いと思ったから、どう活かしていくか考えた。その後、ミキサーのフランク・A・モンタノとジョン・テイラーとともに、多層構造の音作りをした。だからミックスには、かなりの時間がかかったよ。そうして出来上がったキャンバスに、どうジャスティン・ハーウィッツのスコアを入れていくのかも含めて、練り上げていったんだ」

 多くは語られてこなかったニール・アームストロングの苦悩、チャゼルが初めて挑んだ伝記映画、そして宇宙環境の音づくり。これらが合わさった『ファースト・マン』は、物語の中と作り手の両者に試練を与えた映画となったと言えるだろう。チャゼルは、ニールの恐怖や苦悩を通して、観客に新たな体験をしてほしいとも語っていた。

(取材・文=阿部桜子)

■公開情報
『ファースト・マン』
全国公開中
監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイほか
脚本:ジョシュ・シンガー
原作:『ファーストマン:ニール・アームストロングの人生』ジェイムズ・R・ハンセン著
配給:東宝東和
(c)Universal Pictures and DreamWorks Pictures (c)2018 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://firstman.jp/

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