【ネタバレあり】新田真剣佑、コナンぶりの名推理披露 『十二人の死にたい子どもたち』を牽引する存在感

 シンジロウはノブオ(北村匠海)を突き飛ばしたメイコ(黒島結菜)の謎、そしてユキ(竹内愛紗)とゼロバン(とまん)の関係についても淡々と謎を解き、みんなに説明していく。その説明のシーンのおかげで我々鑑賞者もまた、病院に残された12人と同じように状況を理解するのである。つまりシンジロウは1人の参加者でありながら、ストーリーテラーとしての役割も務めている。新田はそんなシンジロウの隠れた役割について理解しつつも、一参加者として振る舞う器用な芝居を見せた。さらに、本作の一番のキーポイントは、12人の子どもたちが「死にたい」と感じていることだ。しかし死にたい理由としてはいまいち動機付けが弱い設定が散見される。この弱さこそが、作品を盛り上げる一つの要素になっていた。

 我々鑑賞者は、12人を見ていると、だんだんと「そんなことで死ななくてもいいのに」と言いたくなってくるのだ。このような心理は、死にたいという気持ちの動機の弱さからくる。しかしこの、「そんなことで死ななくてもいいのに」が本作にとってはとても大切な心の動きになるのだ。

 「そんなことで死ななくてもいいのに」という気持ちは、ある種「もっと生きられるはず」という期待と希望でもある。私たちは作品を鑑賞しているうちに、無意識に12人を生かそうとしていたのだ。その鑑賞者の感情を読み解くかのように、物語のラストスーパートではシンジロウがその気持ちを代弁する。本作を引っ張る役は、集団安楽死の主宰であるサトシ(高杉真宙)だと感じてしまう人もいるだろう。しかしサトシはあくまでも、安楽死の集いに対する主宰である。シンジロウは、集団安楽死に参加しながらも、鑑賞者と映画をつなぎ、作品全体を牽引する役割も担っていた。そしてその大役を堂々と、かつ他の役者をたてながら進行した新田もまた、器用さと実力を兼ね備えた役者だといえよう。

 廃病院という1つの場所で起こるワンシチュエーション作品を飽きることなく楽しめる理由は、このシチュエーションを活かしたストーリー展開にある。ストーリーテラーをたて、時系列に謎を解いていくことでよりこの作品の魅力が引き出されているのだ。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『十二人の死にたい子どもたち』
全国公開中
出演:杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、吉川愛、萩原利久、渕野右登、坂東龍汰、古川琴音、竹内愛紗
監督:堤幸彦
原作:冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』(文春文庫刊)
脚本:倉持裕
音楽:小林うてな
主題歌:The Royal Concept「On Our Way」(ユニバーサル ミュージック)
企画・製作:日本テレビ放送網
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会
公式サイト:http://shinitai12.jp

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