男の子のプリキュア誕生はなぜ大ニュースなのか シリーズ15年かけて伝えるメッセージを紐解く

プリキュアシリーズのジェンダー観

 「初の男の子プリキュア」は、プリキュアシリーズが15年間ずっと積み重ねてきたジェンダー観の上に成り立っています。

 2004年にスタートした『ふたりはプリキュア』は「女の子だって暴れたい」という従来のジェンダーロール(性的役割)から脱却することで女の子に大人気を博し、以後「女の子がパンチやキックで戦う」というスタイルを継承し続けて、子どもたちに愛され続けています。

 シリーズを重ねるにつれて「女の子の好きなもの」を積極的に取り入れ(これは玩具会社の思惑もあると思いますが)、お店屋さん、アクセサリー作り、赤ちゃんのお世話、ダンス、ファッション、お菓子作り、音楽、恋愛、お姫様、魔法……等、「戦う」というロールと同時に女の子の好きなことを積極的に取り入れ「楽しむ」スタイルを続けているのです。

 いわば、「女の子だって暴れたい」は決して「男の子っぽくする」という意味ではなく、女の子であることを否定せず、むしろ「女の子であることを楽しむこと」として描かれ、15年間シリーズを支えてきているのです。しかしシリーズが進むにつれ、それが「プリキュアは規範的な女の子を描く作品」と捉えられることもあり、新しく放送開始した女の子向けアニメ『プリパラ』『アイカツ!』シリーズに多様性の表現では一歩先んじられていた部分もあったかと思われます。

 そんな中、近年のプリキュアシリーズにおいては、様々なジェンダーロールの脱却が行われてきました。

 2015年の『Go!プリンセスプリキュア』では従来のプリンセスのジェンダーロールであった「守られる存在」から脱却し、「プリンセスとは自立して夢を叶える女の子」であると再定義し、翌2016年『魔法つかいプリキュア!』では、人間界、魔法界、妖精界と異なる3つの世界の女の子が、いわば「疑似家族」のように描かれ、種族、性別などを超越した多様な価値観の尊重と相互理解を描き切りました。

 さらに翌2017年『キラキラ☆プリキュアラモード』では個性あふれる6人のプリキュアがそれぞれ自分の夢を持ちながらも、協力しあい大きな目標へと突き進む「個の尊重と、多様性への理解」を重視した作りとなっていました。

 この『キラキラ☆プリキュアアラモード』では、キュアショコラ(剣城あきら)の、男子的な装い(本人はその恰好が似合うし好きだからしているだけ)も話題となり、プリキュアに憧れる「少年」リオ君は、終盤プリキュアの力を得て大活躍しました。

 そして、現在(2018年)放送中の『HUGっと!プリキュア』では「子育て」を1つのテーマにしながら「子育ては社会がするべきもの」や「ワンオペ育児の否定」「帝王切開も正しいお産」等社会的問題を包括しつつ、女性の社会進出から家父長制への批判、子育てだけが女性の幸せではないことなど、多様な価値観を描いてきているのです。

 その象徴としてのキャラクターが、今回プリキュアとなった若宮アンリ君なのです。

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