佐野玲於、パフォーマーと俳優業で培った“魅せる力” 『ハナレイ・ベイ』では独特の存在感を残す

 映画は、10年にわたって息子・タカシの命日にハレナイ湾を訪れ続ける母・サチ(吉田)が、折り合いの悪かった息子との日々を回想しながら進むヒューマンドラマ。あくまで現在のサチを中心に描かれるため、佐野の出演場面はさほど多くはない。それなのに、なぜだろう。物語の中で、佐野演じるタカシの存在感が強く印象に残る。

 サチが思い出す19歳のタカシは、思春期真っ只中。シングルマザーの母とはぶつかってばかりで、タカシはサチに向かって鋭い視線とトゲのある言葉を繰り返す。その姿はあまりに生っぽく、ドキッとさせられるほど。とくに惹かれるのは、サチとの軽妙な会話。とりわけ、“Tシャツが洗濯によって色落ちしてしまった”というありがちなシチュエーションでの掛け合いは、そのほとんどがアドリブだというから、驚いてしまう(参考:AERA dot.|吉田羊×佐野玲於 2人が考える「男女がうまくやる方法」とは?)。決してオーバーに“演じる”のではなく、あくまで自然体に“感情を表現する”。だからこそ、そこに確かにタカシが存在していた事実が、心にスッと沁みてくる。

 現在は、来春公開となる映画『PRINCE OF LEGEND』の前日譚である同名ドラマに生徒会長・綾小路葵役で出演中の佐野。初登場となった第2話では、バキバキに鍛え上げられた筋肉美を惜しみなく披露。コメディタッチのストーリーの中で、『ハナレイ・ベイ』の“どこにでもいる青年”とはまるで違う、“見たことのない優雅な肉体派王子”として視聴者たちを夢中にする。

 幼い頃からダンスを通じて人の心を動かし続けてきた佐野は、どんな役柄であれ“感情を魅せる”ことがうまい。佐野にとっては、ダンスと演技は表現方法として異なるだけで、根っこにあるものは同じなのではないだろうか。新たな作品に触れれば触れるほど、気になる表現者・佐野玲於。今後の輝きからも、ますます目が離せない。

■nakamura omame
ライター。制作会社、WEBサイト編集部、専業主婦を経てフリーライターに。5歳・7歳の息子を持つ2児の母。ママ向け&エンタメサイトを中心に執筆中。Twitter

■公開情報
『ハナレイ・ベイ』
10月19日(金)全国ロードショー
原作:『ハナレイ・ベイ』(新潮文庫刊『東京奇譚集』)村上春樹著
脚本・監督・編集:松永大司
音楽:半野喜弘
出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類
配給:HIGH BROW CINEMA
(c)2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会
公式サイト:http://hanaleibay-movie.jp/

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