立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第31回

アメリカで話題の“映画館定額制”は日本でも始まるか? 映画館スタッフが可能性を検証

 『MoviePass』はスマホアプリのサービスで、会員価格で観るにはまず映画館を選択し、作品と時間を選択します。支払いは専用のクレジットカードを作る必要があります。チェックインが完了したら、カードを映画館で提示してチケットを受け取る、という流れです。つまり、会費収入だけでなく、どういう属性の人がどういう映画をどのくらいの頻度で観ているかという情報を得られますから、それを製作会社や配給会社、興業会社に売ることで利益を出そうという戦略なわけです。

 その衝撃的なサービスから、今年の6月には会員が300万人を突破した、と喧伝されています。つまり会費収入は月額で33億円以上! オリジナルクレジットカードを作らせるわけですから、さらに入場料決済からもいくらか手数料を稼いでいることでしょう。しかし支払額はさらに膨大です。なにしろ平均回数が1回を越えたら、会費は全部すっ飛んで以後、赤字なんですから。 

 僕には検討もつきませんが、どこどこに住んでいる誰々がどういう映画をどのくらい観た、という情報って、いくらで売れるんでしょう? 素朴に考えたら、1人頭数百円くらいの単価で、複数の映画関連企業に販売しなければこのビジネスは成立しないように思えます。しかし映画業界だけでなく、例えばドウェイン・ジョンソン出演の映画を観る人は、ジョニー・デップの映画を観る人より健康器具や健康食品を購入する金額が多い、みたいなことがあるのならば、あらゆる業界がそのデータを欲しがるかも知れません。そうすれば1人あたりの単価が下がって、少しは現実的な値段になってくるかも知れません。

 また将来的には映画館に掛け合って、コンセッション(売店)の売り上げの一部をいただく、ということも検討しているようです。劇場に足を運ぶ回数が増えれば、必然コンセッションの売り上げも上がるはずなので、これは理にかなっていると思います。加えて、興業会社や配給会社に入場料の割引交渉もしているかも知れません。

 でも本当に、うまくいくのでしょうか? 結論を言ってしまうと、うまくいきませんでした(笑)。

 『MoviePass』のサービスは、これまでもかなりブレています。どんどん新ルールが追加されたり、廃止されたりしているのです。ロケットスタートを切ったものの、試行錯誤の段階なんですね。2018年8月22日現在のサービス形態は、すでに1日に1本までではなく、月3本までになっています。……なんか微妙ですよね。ちょっと濃いめの映画ファンにとってはかなり物足りないのではないでしょうか。要はヘビーユーザーの利用を大幅に制限したということです。4本以上観る場合も、最大500円割引で観られる、というサービスはあるようですが。

 この変更からわかるように、かなりの経営危機にあるようです。現時点では毎月相当な額の赤字を垂れ流しており、株価も急落しているとか。このサービス変更は、日本の複数のメディアでも報じられました。(参考:日本経済新聞「米ムービーパス、映画「見放題」撤回 月3回までに」

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