『デッドプール2』が提示する、社会のはみ出し者の視点からの解答 ヒーローとしての真の魅力を探る

 確かにヒーローには、一般市民と同じように法律を守るという義務が課せられている。正義を行っているといっても、自分の考えだけで善悪を判断し、殺人を犯すようなことはあってはならない。バットマンが、ジョーカーからどんなにひどい仕打ちを受けても、大事な人を殺されたとしても復讐の殺人ができないのは、このためである。また『スパイダーマン』では、「大いなる力には、大いなる責任がともなう」というメッセージが重要な意味を持っていた。しかしデッドプールは、もともとそんなことお構いなしに、悪人をどんどん刀や銃で惨殺していくという、なかば異常性を持った存在だった。この意味において、デッドプールは「ヒーロー失格」といえよう。しかしラッセル少年にとっては、そうではなかったようだ。自分のために殺人を犯し、警察に逮捕されるデッドプールに対して、彼は深いシンパシーを感じることになる。

 ラッセル少年は、孤児院のなかで「けがれた存在」だとミュータント差別を受け、電気ショックなどの拷問を受け続けるという、想像を絶する苦しみを味わっていた。苦痛に耐え続けている間、彼は世の中の全てを恨み絶望していたはずだ。そんな子どもが果たして、高潔なヒーローたちにあこがれを感じるだろうか。虐待を受けているときに助けてくれなかったヒーローの言うことを信じることができるだろうか。彼にとっては、自分を虐待した悪人を、躊躇なくぶっ殺してくれる存在こそが真のヒーローなのである。そして、それを成し遂げることができたのは、他のヒーローたちから疎外されがちなデッドプールただ一人だったのだ。

 また、自分が太っていることで、そんな自分は、たとえ力を持っていたとしてもヒーローとしては受け入れてもらえないだろうということを、ラッセルは語っている。確かにコミックヒーローの大部分は、基本的にスレンダーかマッチョな体型ばかりである。その意味では、どんな見た目でも問題なく受け入れられる悪役の方が、むしろ寛容だといえるのではないだろうか。次第に追いつめられていく少年の姿は、若者が周囲の価値観に合わないことからグレて犯罪に走るようになるまでの、現実的な過程を見せられているようだ。

 さらに本作は、闇に包まれていく少年の心に接近していく。差別された者が差別をする、暴力を受けた者が暴力を振るうということは、現実にもあることだ。FBIの発表によると、特定の人種や趣向を持つ人に対する偏見や憎悪によって引き起こされる犯罪「ヘイトクライム」が、近年増加傾向にあるという。それらを引き起こす犯罪者を刑務所送りにするだけでは、この種の犯罪の決定的な抑止にはならないだろう。彼らの考えを変えるためには、心を救わなければならない。劇中で、前作から登場していたヒーローが同性を恋人にしている描写からも分かるように、社会がもっと多様性を受け入れ、少数者や、社会から“のけ者”にされている人々に居場所や役割を与えなければならないということを、本作は語っている。

 とにかくギャグ満載でふざけてばかりいる『デッドプール2』だが、描かれている問題はきわめて深刻で今日的だ。デッドプールは、そこに優等生ヒーローには真似できない、社会のはみ出し者の視点からの解答を提示したといえる。これ以上の続編が制作されるかは分からないが、その意味で、本シリーズは存続する意義がある作品であることは間違いない。デッドプールは、いまの時代の人々を救うことができるヒーローだからである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『デッドプール2』
全国公開中
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・レイノルズ、ジョシュ・ブローリン、モリーナ・バッカリン、ジュリアン・デニソン、ザジー・ビーツ、T・J・ミラー、ブリアナ・ヒルデブランド、ジャック・ケーシー
配給:20世紀フォックス映画
(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://deadpool.jp/

関連記事