私たちは今“メジャーBL”の破壊力にやられている! 腐女子を解放する『おっさんずラブ』の革命

 これまでドラマでは、ここまで全面的に腐女子をターゲットにした作品はなく、実写に萌えるタイプの腐女子は、たまに突然変異のように生まれる男男関係エピソードを見逃さないようにキャッチするしか、楽しむ方法はなかった。それも『相棒』(テレビ朝日系)の「ピルイーター」、大河ドラマ『平清盛』(NHK)で平重盛が藤原頼長に襲われる回、『MOZU』シリーズ(TBS系)で長谷川博己と吉田鋼太郎が演じたホモセクシャルを思わせる関係など、数えるほどしかない。古くは1993年の『同窓会』(日本テレビ系)というTOKIOメンバーが同性愛者を演じた衝撃作もあるのだが、公式に設定として同性愛カップルと発表されたのはやはり1月クールの『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)が最初と言っていいのではないだろうか。眞島秀和演じる渉と北村匠海演じる朔は、ドラマ発男性カップルとして空前の“わたさく”旋風を巻き起こした。それに続いて、やはりドラマオリジナルである『おっさんずラブ』が4月クールに満を持して登場したのだ。

 まるで突然の規制緩和。もう腐女子は自宅でもこそこそとBL漫画を読むのではなく、家族と一緒にBLドラマを見られるようになったのだろうか。職場でも堂々と「『おっさんずラブ』、面白いよね。キュンキュンするよね」と同僚たちと盛り上がっていいのだろうか。そうだとすれば、これは腐女子の解放である。

 しかし、BLが地上波ドラマというメジャーシーンに進出したと考えると、心配になってくるのは、『おっさんずラブ』のようなドラマが、実際に同性愛者である人からはどう見えるのだろうということだ。本作のキャラクターは、もともと女好きの春田はもちろん、無駄にダンディな黒澤部長や、ノンケのことを「あっちの人間」と言う同性愛者の牧と武川にしても、女性の恋愛対象となりうる男性ばかり。LGBTを描くというより、優先されているのはBLのお約束的な設定であり、リアリティに欠けると言えるかもしれない。

 女性のキャラクターも、「好きになるのに、男も女も関係ない」と明るく言ってのける春田の幼馴染ちず(内田理央)、30年連れ添った黒澤が部下の男を好きになって離婚されてもその恋を応援する妻・蝶子など、現実の女性に比べて理解がありすぎる。『隣の家族はー』で男性カップルを理解不能と言った主婦のように、すんなりとは受け入れられない女性がいる方がリアルではないだろうか。『おっさんずラブ』の女性は、やはりBLコミックによく登場する腐女子の投影に近いと思える。

 腐女子が萌えの対象として男同士の恋愛物語を楽しむのは、リアルに男男交際している人にとっては不愉快なのか、そうではないのか。BL的なドラマを放送するならば、また受け手として楽しむにも、ここは一考すべきポイント。しかし、当然ながらBL好きに現実の男性カップルを否定する人はいない。腐女子にとって都合良く考えるなら、妄想の産物であるBLや『おっさんずラブ』のようなドラマにも、差別や偏見をなくしていく効果があるのかも!?

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:15〜放送
出演:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々ほか
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ) 、松野千鶴子(アズバーズ)
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日
公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/ossanslove/

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