『ボス・ベイビー』なぜ人気作に? 脚本の整合性を超えた実存主義的な姿勢

 一方で、ティムとボス・ベイビーの部下たちがバトルする「赤ちゃんパーティー」での騒動や、ボス・ベイビーが仔犬の着ぐるみを着て企業の深部に潜入する作戦など、スラップスティックなユーモアやギャグを盛り込んだ一つひとつの場面は、うまく作り込まれていて飽きさせない。その部分は、『オースティン・パワーズ』シリーズの2作の脚本を書いたマイケル・マッカラーズが本作の脚本を書いているということが功を奏しているだろう。マッカラーズは、自分の赤ちゃんを手に入れるために奔走するコメディー映画『ベイビーママ』(2008年)の監督・脚本をも手がけており、コメディー描写や家族映画を手がけるという意味では、まさに適材といえる。

 ドリームワークス・アニメーションの全体的な作風は、『カンフー・パンダ』シリーズや『マダガスカル』シリーズなど、ディズニー/ピクサー作品に比べ、『ヒックとドラゴン』などの一部の例外はありつつも、比較的低年齢でも楽しめる、スラップスティックなものが多い。そこは、『ミニオンズ』のイルミネーション・エンターテインメントや、『アイス・エイジ』シリーズのブルースカイ・スタジオなどと近い。

 …というよりは、むしろ近年のディズニー作品やピクサー作品の方が、大人が楽しめる深みのある作品をつくるために、子ども向け映画の業界内で先鋭化、異端化してきているといえるだろう。差別がはびこる社会の暗部を描いたノワール『ズートピア』や、人生に悩み、田舎の酒場で過去の思い出を語り合う『カーズ/クロスロード』など、小さな子どもたちはもちろん、中学生あたりの年代でも、作品の魅力を味わい尽くすのは難しい。『ボス・ベイビー』と同時期の公開となった『リメンバー・ミー』も、メキシコの文化における死生観が根底にあり、教育的な部分が大きい。

 『ボス・ベイビー』の日本で人気を得たのは、「ボス!」「ベイビー!」というインパクトあるキャラクターの面白さであり、内容自体も、それが単純に楽しめるものになっているという明快さにあるだろう。そしてストーリーの側を歪ませてまでも、キャラクターの魅力で潔く一点突破していこうという姿勢が支持されたように思える。それは、ディズニー/ピクサー作品とは別の方面からヒット企画を生み出していくための、一つの答えになっているのかもしれない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ボス・ベイビー』
全国公開中
監督:トム・マクグラス
キャスト:アレック・ボールドウィン、マイルズ・バクシ、ジミー・キンメル、リサ・クドロー、スティーブ・ブシェミほか
吹替キャスト:ムロツヨシ、芳根京子、乙葉、石田明(NON STYLE)、宮野真守、山寺宏一ほか
配給:東宝東和
(c)2017 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://bossbaby.jp/

関連記事