「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『見栄を張る』

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、リアルサウンド映画部の薩摩侍こと折田が1本のイチオシ作品をプッシュします。

『見栄を張る』

 いよいよ新生活がうごめき出す3月終盤。肩をいからせ足早に行き交う人々の中、見栄を張らずにはいられない。

 是枝裕和監督が製作総指揮を務めるオムニバス映画『十年 日本(仮)』にも参加する、新鋭・藤村明世監督の初の長編映作品『見栄を張る』は、そんな日々に笑いをクスリと与え、優しく感動へと誘う映画だ。映画界の新たな才能のスタートに貢献するCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)の助成作品であり、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016長編コンペティション部門にてSKIPシティアワードを、イタリアのWorking Title Film Festivalにてスペシャルメンションを受賞し、昨年ユーロスペースでの単発上映でも好評であった本作が、満を持してロードショー公開される。

 舞台は東京から和歌山へ。28歳の主人公・絵梨子は、女優業で成功することを夢見ながらも、その実カフェのアルバイトで生計を立てる日々。私は“女優”なのだと見栄を張る彼女だが、映画のオーディションを受けるも上手くはいかず、私生活では売れない暢気なお笑い芸人と半同棲中で先行きは不安だ。ある日、姉の訃報を受け帰郷した彼女は、疎遠であった親戚一同の冷たい視線にさらされる中、姉の遺したひとり息子・和馬の面倒を見ると見栄を張ってしまう。そして姉が葬儀で参列者の涙を誘う「泣き屋」の仕事をしていたことを知る。その仕事の真の役割を知らぬまま、絵梨子は女優ならば簡単にできると思い、「泣き屋」を始めてみることになる。

 上京組である筆者にとって、身につまされる作品だった。大きな夢を掲げ、「もう故郷には帰らないぞ」と東京へとやってきたもののそう上手くはいかず、生活に追われ、夢から少しずつズレていく実感と、過ぎていく時間に焦るばかり。本作の主人公である絵梨子を見ていると、まさにそんな自分を見ているような気になってくる。

 軽快なテンポで展開していくストーリーに、日常の中に生まれる“見栄を張らざるを得ない”瞬間がいくつも映し出される。和歌山の風景は、観る者の故郷の風景と重なり、絵梨子の一挙一動や見栄を張った言葉の端々に、つい自分自身を発見してしまうのではないだろうか。そんな中で、絵梨子の冷たい表情が少しずつ暖かみを帯びてくるのが印象的だ。

 しかし本作は、上京組だけの物語にはもちろんとどまらない。「泣き屋」という馴染みのない職業と、急に担うことになる母親的な役割。目まぐるしく変わる環境下で、姉の残した/遺したものによって、絵梨子は少しずつ変わり始める。絵梨子を演じた久保陽香は、オーディション時に彼女だけ泣けなかったというが、劇中でやがて溢す涙はなんとも美しく、自分の姿を彼女に重ねてしまっていただけに救われる。

 今後の日本映画界を牽引していくのであろう藤村監督作品を、ぜひこのタイミングで、あなたの映画として発見して欲しい。それと劇中に度々登場する、カップ焼きそばとしょうがの組み合わせ、これがなかなかに美味しい。

 ■公開情報
『見栄を張る』
3月24日(土)、渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開
監督・脚本:藤村明世
出演:久保陽香、岡田篤哉、似鳥美貴、辰寿広美、真弓、倉沢涼央(旧:齋藤雅弘)、時光陸、小栁圭子(特別出演)
(c)AkiyoFujimura
公式サイト:http://miewoharu.com/

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