葵わかな、全ての困難を吹き飛ばす“笑い”への思いーー『わろてんか』第7週を振り返る

 てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)は、念願だった自分たちの寄席「風鳥亭」を開業させた。『わろてんか』(NHK総合)第7週「風鳥亭、羽ばたく」では、閑古鳥が鳴く風鳥亭で、伝統家落語の大看板である喜楽亭文鳥(笹野高史)が落語を披露するという大逆転劇が起こる。藤吉の好きな演目「時うどん」(江戸落語でいう「時そば」)を、文鳥が口演し客席を大いに沸かせるシーンは、今週のクライマックスであった。風鳥亭に笑いが響き渡るまでには、伊能(高橋一生)の力添えと、藤吉の消えることのない笑いへの情熱があったが、大黒柱を支えるてんの絶え間ぬ努力と機転の良さには一際光るものがある。

 風鳥亭は、端席と呼ばれる格の低い寄席で、芸人には敬遠される場所。ましてや、伝統派の落語家が口演をすることは難しい話だ。そこにフラリと現れたのが、伊能。彼の家・伊能製薬は文鳥と昔から付き合いがあり、伊能も幼い頃から文鳥を知っていた。そして、文鳥は藤吉にとって子供の頃からの憧れの噺家でもあった。伊能は藤吉と共に、伝統派の落語家を紹介してもらうため、文鳥の元を訪れる。しかし、開業まもない風鳥亭には色がないこと、筋が違うとやんわりと断られてしまう。

 アサリ(前野朋哉)が風鳥亭に見切りをつけて出て行き、ついには店としても限界が見えた頃、てんはある決心をする。それが、文鳥に落語家を紹介してもらうのではなく、文鳥本人に風鳥亭へ出てもらうことだった。普通にお願いしても、二の舞になるだけ。そこで、てんがとった秘策が、文鳥の好みそうな甘口のカレーうどんを振る舞うことだった。これは、伊能がカレーにまつわる昔話の中で文鳥が甘党であると話していたことから思いついたもの。過去には、楓(岡本玲)との嫁合戦において、外米に合うのはカレーである、とライスカレーを提案し、見事勝利を収めた節がある。

 さらに振り返れば、亡き新一(千葉雄大)の論文を伊能へと送り、傾きかけていた藤岡家と伊能製薬をビジネスパートナーとして繋ぎ止めたのも、てんだった。「君に興味がないわけじゃない」と伊能が今もてんにこうして力添えをしているのは、彼女の機転の良さを見込んだ上での好奇心からなるもの。加えて、やることなすこと、ひたすら空回りをし続ける藤吉を啄子(鈴木京香)と共に陰で支え続けているのは、てんである。例えば、てんが疲労困憊の中、夜なべをしてまで着物を縫っていたのは、風鳥亭の経営難を支えるためだ。持ち前の明るさ、根気強さがてんの原動力であり、日本中に笑いを広めた彼女の仕事への向き合い方とも言えるだろう。

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