高度化するネット社会の負の側面とは? エマ・ワトソン主演『ザ・サークル』が描く不安と恐怖

 SNSが生活に彩りを添えているのではなく、いつしかSNSを充実させるために生活をしているのではないかという逆転現象が、一部の人にとって疲弊を引き起こすのである。本作のメイが象徴しているのは、このように自分の行動を「有効利用」し、全てを捧げようという、ネットの世界にのめり込む現代人であり、SNSへの狂信的な態度である。ここでの「サークル」というのは、新しい現代の「宗教」にも見えてくる。そしてそのシステムを使う代償として、人々は個人情報や時間と労力をせっせと提供する。

 本作が真におそろしさを発揮するのはここからだ。犯罪の抑制に役立つと評価された「シー・チェンジ」の実績から、「サークル」の思想はさらにエスカレートし、政府との協力体制を組むことで行政の役割の一部を担い、このシステムによって国民の管理をしようというところにまで行き着いていく。ここに至って、一元化し、宗教化し、体制と一体化した巨大サービスの最終目標とは「世界支配」なのかもしれないと思わされてくる。多様化しつつあったはずのわれわれは、ひとつの巨大なシステムに吸収され、そこでコンテンツの一部として生かされる、SNSを盛り上げ利益を上げるための奴隷になってしまうのだろうか…。

 高度化されたネット社会の負の側面を中心に扱っている本作だが、実際の社会がすでに十分にそのような不安を呼び起こす兆候を見せており、さらなる発達が確実に予想される以上、描かれたような社会に近づいていくことは避けられないのかもしれない。社会を元に戻すことができないのなら、そこで重要になってくるのは、行き過ぎた管理への警戒や個人情報を守ろうとする問題意識を持つことだろう。そして「ネットリンチ」や「デマの拡散」など、ネット社会の問題点を、多くの個人が理解することだ。

 だが逆にSNSが、弾圧される市民にとって重要な意味を持つこともある。エジプトで民主化を求めた人々の反政府デモや、イスラエル軍によるガザ地区への空爆など、虐げられる一般市民が自らSNSで声を挙げることで、その窮状がリアルタイムで世界に伝わることになったのである。ツールは使いようによって、支配に抵抗する手段にもなり得るのだ。本作ではメイを通して、その考え方を広く観客へ伝えようとしている。その意味で本作は社会的な存在価値を獲得しているのだ。

 クレジット部分には、「ビルに捧ぐ」という献辞が記されている。これは、主人公メイの父親を演じた、ビル・パクストンが手術後の合併症によって映画の完成前に亡くなったからである。また、その妻を演じたグレン・ヘドリーも、その4か月後に亡くなっている。本作は二人のベテラン俳優の最後の年を飾る作品でもあるのだ。倫理を揺るがせられるエマ・ワトソンの演技や、典型的なカリスマ的指導者を演じるトム・ハンクスの見事ないかがわしさが見どころだが、ビル・パクストンとグレン・ヘドリーの円熟の演技も目に焼き付けておきたい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ザ・サークル』
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて公開中
出演:エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガ、カレン・ギラン、エラー・コルトレーン、ビル・パクストン
監督・脚本:ジェームズ・ポンソルト
原作:デイヴ・エガーズ著「ザ・サークル」(早川書房)
音楽:ダニー・エルフマン
編集:リサ・ラセック
撮影:マシュー・リバティーク
美術:ジェラルド・サリバン
原題:「The Circle」/2017年/アメリカ/シネスコ/5.1chデジタル/110分
配給:ギャガ
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/circle/

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