是枝裕和監督が語る、『三度目の殺人』の特異性 「ドキュメンタリーを撮っている感覚だった」

「物語の外にあるものが大事なんです」

——細かいディティールなのですが、三隅はピーナッツバターが好物で、拘置所内でもトーストに塗って頬張るシーンがあります。あの食べている姿が非常に怖かったです。

是枝:あれね(笑)。なくてもいいシーンなんだけど僕も好きなシーンで。拘置所の売店に置かれているのはイチゴジャムとピーナッツバターなんですよ。それを知ったときに、単純にいいなあと思ったのが理由なんだけど。

——ほかにも、弁護士・重盛(福山雅治)がマンションから出てすれ違う女の子と交わす「こんにちは」のやり取りなど、一見物語の本筋とは離れたシーンが非常に印象的です。

是枝:ピーナッツバターもあの女の子も、なくてもいいんです。なくてもいいんだけど、どちらもあの世界には必要な要素だと考えました。脚本に書き込んでいたものでは、もっとストーリーラインからこぼれているものはあります。実際に撮影もしているんですけど、編集で落としている。じゃあ、最初から必要ないじゃないかと思われるかもしれないのですが、そういった物語の外にあるものが大事なんですよ。

——そういった細かいディティール部分と、物語の本筋としての部分をどう構成していったのですか。

是枝:役者さんたちの演技力で成り立っている部分は結構あります。とにかく役所さんと福山さんの相性が良かったと思います。福山さんは、演技が器用じゃないことを自分でもわかっている。でも、主役は別に器用である必要がないんです。役所さんみたいな役者とぶつかったときに、一歩間違うと芝居合戦になってしまい、暑苦しさを感じてしまうケースがあります。福山さんはそうとはならず、役所さんの芝居を受け止めて、自分の芝居を素直に出していた。だから、福山さんも役所さんもお互いに気持ちよかったと思います。

——是枝監督初のサスペンス映画と宣伝には書かれている一方で、役所さんと福山さんの“バトル”映画のようにも感じました。

是枝監督:“人は人を裁けるのか”という答えのないようなことを考えながら、本作を構想しましたが、メインビジュアルにも使用されているふたりの対決シーンを楽しんでもらえるだけでも十分面白いと思います。ふたりのガラス越しの対面は、『夕陽のガンマン』のイメージも意識しました。銃を抜く前のガンマンみたいな感じで。サスペンス映画ではありますが、エンターテイメント作品として多くの方に楽しんでいただければと思います。

是枝裕和監督

(取材・文=石井達也)

■公開情報
『三度目の殺人』
全国公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功
配給:東宝・ギャガ
(c)2017『三度目の殺人』製作委員会
公式サイト:http://gaga.ne.jp/sandome/

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