高橋一生演じる政次の死が意味するものーー『おんな城主 直虎』が描く喪失と再生

 政次の蘇りと彼のためではない経は、結果的に直虎を救うことになる。政次のことを書いた井伊谷の人々からの手紙は、彼ら彼女らの中に政次は生きているということを伝えるものだった。それを読み、「なんと、但馬は生きておったのか」と微笑む姿は、34話で「但馬はもうおらぬのでしたね」と泣く姿と比較するにつけ、彼女にとって大きな救いとなったのは間違いない。

 直虎は、35話で、「救うことによって救われる」ということを体現した。鈴木重時の死を経で悼み、政次の死に最も大きく関わった近藤康用(橋本じゅん)を介抱することで、自分たちにとって敵だった側の人々を救い、自分と同じく愛する人たちを失い、また自分だけ生き残ってしまったことに苦しむ龍雲丸を救うことが、自身の救いとなる。

 政次の死によって自分自身も絶望の淵にいた彼女のもたらした救いは、多くの人々を蘇らせた。彼女自身を含め、瀕死の重傷を負っていた人々を、心に癒えない大きな傷を負った人々を、そして亡くなった人々を生き残った人の心の中に蘇らせたのだ。

 直虎はまた、大きな決断を迫られることになる。一度枯れ果てた地に、新たな花が芽吹くように、明るく逞しい井伊の人々が起き上がろうとしている。その土となったのは、他ならぬ小野但馬守政次だろう。彼女はこれから、どう動くのだろうか。新しく何かが始まろうとしている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿

■放送情報
『おんな城主 直虎』
[NHK総合]毎週日曜20:00〜20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00〜18:45
作:森下佳子
主演:柴咲コウ
制作統括:岡本幸江
プロデューサー:松川博敬
演出:渡辺一貴、福井充広、藤並英樹
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/naotora/
写真提供=NHK

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