岡田将生×柳楽優弥×松坂桃李は“人生の岐路”にどう向き合う?  『ゆとりですがなにか』SP後編に寄せて

 おなじみのうだるような音楽。それだけで、坂間と山路の「鳥の民」での愚痴話やまりぶの胡散臭さ、彼らを取り巻く社会の雰囲気、その全てが浮かび上がってくる。そして目の前で繰り広げられている不毛な嫁姑バトルを見つめる安藤サクラの表情。その冒頭だけで「『ゆとりですがなにか』が帰ってきた!」という気持ちにさせられて思わずニヤニヤ笑ってしまう。

 宮藤官九郎脚本、ドラマ『Mother』『Woman』などの水田伸生演出の2016年4月クールのドラマ『ゆとりですがなにか』の続編である2週連続スペシャルドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』の後編が今夜放送される。「ゆとり第一世代」と呼ばれる1987年生まれの主人公たちを描いた連続ドラマ版の最終回は、坂間(岡田将生)が会社をやめ家業の造り酒屋を継ぎ、11浪していたまりぶ(柳楽優弥)は、身の丈にあった大学を受験することを決め、会社で将来を有望視されていた茜(安藤サクラ)は坂間との結婚を機に退職を選び、恋に翻弄される山路(松坂桃李)は目下の悩みだった性教育の授業を通して生徒や30歳目前にして悩む自分たちと向き合った。山路が最終回、「心の思春期は生きている限り続きます」と言う場面があったが、「大人の思春期」たる時期を乗り越え、人生の岐路で何らかの重要な選択をした彼らは、1年後どう生きているのか。

 それぞれ営業部長、学年主任、大学生になった坂間、山路、まりぶ。そして家庭に入り、家族の誰にも気づかれない妊娠のことを口に出せずにいる茜。自分で決めた選択だったとしても「ああだったら」「こうだったら」「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうことは多い。ドラマの最終回が登場人物たちの人生のクライマックスではない。続いていく人生では、さらなる悩みや葛藤が降りかかってくる。後に後悔することが怖いから、何かを自分で決断するということはそれだけの勇気と時間が必要なのだ。

 そして案の定「こんなはずじゃなかった」とうろたえている坂間は、前の職場の後輩の月収を知りたがり、順調に出世している山路に対して僻みに近い言動をとる。それに対する山路もまた、自営業がうまくいってなさそうな坂間に対して1本線を引いたようによそよそしい。ナゾの安定感があるまりぶは、将来を見据えてOB訪問をし、居酒屋でいつものメンバーで酔っ払っていても、妻子が来て、妻が告げる「エビチリの真実」の衝撃にカッと目を見開いた後は、スッと帰っていく。また、自分のことで精一杯で妻・茜の変化にも気づかない坂間と違い、いち早く山路の異変に気づくところも、まりぶが今回、葛藤する他のメンバーとは少し違う立ち位置にいることがわかる。

 また、私生活でも第一子を出産したばかりの安藤サクラだからこその役とも言える茜。連続ドラマの頃から変わらないが、しっかり者の彼女はとてもかわいい。山岸(太賀)でさえ気づく妊娠に夫が気づかず、誕生日も忘れられ、家族に気遣われて気まずい思いをした挙句、大怪我をして帰ってきた夫へのやり場のない怒りのために、車を思わず殴りつけるが、殴った拳が痛くてその手をさする。「家族の一員なんだから」と家族総出の外出に誘ってくる夫に「気分が悪い」とゴロゴロと逃げ、彼がいなくなった後に「気づけよ」と呟くところもまた、茜らしくていじらしい。茜を思いやって山路が言う「家庭に入るって、茜ちゃんにとって坂間家は、家族じゃなくて社会だからね」という台詞は、言葉にしない茜の心情を代弁している。

 前編は、突然学校を辞めて連絡が取れなくなった山路が、地元のDIYショップで蒼井優演じる同級生と再会するところで終わる。訛っている蒼井優の色気に、またも翻弄されるだろう山路の恋の予感がプンプンする。それと同時に「一度も社会に出たことないやつに言われたくないよ!」という坂間の言葉に触発されたような山路の突然の行動に、彼は他のメンバーと違い、まだ人生の岐路には立っていなかったのだと感じる。飲みの席での彼の坂間への距離感が、単に坂間の苦労を気遣ってのことだけでなく、自分で決めた人生を生きているか、そうでないかの違いに対する葛藤でもあったのではないかとも思わせるのだ。

関連記事