作品世界への圧倒的な没入感! 弐瓶勉原作劇場アニメ『BLAME!』が傑作となった理由

 空間作りにおいては、音響の仕事も素晴らしい。ベテラン音響監督の岩浪美和氏自身が「自分のなかでは“アニメーション音響革命”というつもりで、現時点での集大成として作った作品」(参考:PHILE WEB - 日本初のドルビーアトモス採用アニメ『BLAME!』を原作ファン目線でレポート)と豪語する本作だが、画面の外に広がる息遣いが精細に感じられる仕上がりとなっている。

 主人公・霧亥の武器、重力子放射線射出装置が放たれると右から左へと貫かれるような感覚を味わえ、上下左右から襲いかかるセーフガードと呼ばれる敵個体の恐怖を音で実感させる。フレームに映らないキャラクターの息遣いまで伝え、作品世界への没入感をこれ以上ないほどに高めている。

 本作はドルビーアトモスを採用しているので、対応劇場で鑑賞すればそれらの効果はさらに上がるだろう。

 

 映像面においてはライティングの質が格段に向上している。今回の制作にあたり、ポリゴン・ピクチュアズの子会社ジェー・キューブが「Maneki」という新ツールを開発している。(参考:CGWORLD.jp - 劇場アニメ『BLAME!』にも導入された、オールインワンアニメーション制作ツール「Maneki」発売)従来のセルルックのフルCGでは光源が単一しか使えなかったが、複数の光源を用いることができるようになったそうだ。これによって、より奥行きある映像を実現し、キャラの感情に沿った照明作りを可能にしている。

 こうした技術の研鑽が、すべて観客を引きずり込む力となっている。没入感を高め、観ている人に世界を体験させる。そのために必要な技術を開発し、映像も音も最適な演出を選択する。映画として当たり前のことをどこまでも忠実に、どこまでも向上させる姿勢が、この傑作を生んだのだ。

 上映時間まるまる、『BLAME!』の世界に浸りきれる。実に幸福な105分である。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『BLAME!』
全国公開中
原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
総監修:弐瓶勉
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
脚本:村井さだゆき
プロダクションデザイナー:田中直哉
キャラクターデザイナー:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
美術監督:滝口比呂志
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:angela「Calling you」
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工動画制作局
(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
公式サイト:http://www.blame.jp

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