『美女と野獣』は王道ミュージカル映画ではないーー“実写×アニメーション”の演出を読む
劇場に足を運ぶまで、実写版『美女と野獣』はミュージカル映画なのだろうと、なんとなくふわっと想像していた。SNSなどで感想を調べても、本作を「ミュージカル映画だ」と評する声は少なくない。しかし、原作アニメーションの世界観を忠実に再現した実写版『美女と野獣』は、“いわゆる”ミュージカル映画とは大幅に異なる仕上がりになっていたように思う。
筆者はなぜ、本作に対して「きっとミュージカル映画だろう」という先入観を持ったのか。理由のひとつとして、日本語吹き替え版がミュージカル界の役者を中心に固められていることが挙げられる。ベル役・昆夏美、野獣役・山崎育三郎を筆頭に、脇役にもミュージカル経験者が多いため、作品もきっとミュージカル仕様なのだろうと思ったのだ。
また、劇団四季版ミュージカルの印象が波及した点も大きい。1995年に初演を迎え、現在に至るまでロングランを記録しているとあって、『美女と野獣』といえばアニメ版の次にこのミュージカルを連想する人も多いだろう。この劇団四季版はディズニーが後ろ盾になっているため、アニメ版と同様に音楽はアラン・メンケンが担当し、衣装もアニメのデザインがもとになっている。そのため、実写映画で生身の人間が演じるのであれば、ミュージカル版に近い仕上がりになるのではと考えられたのだ。
しかし、いざ実写版を見てみると、ストーリー序盤の“朝の風景”あたりで早くも違和感を抱いた。というのも、曲中で役者の身体表現がとても控えめだったためだ。
ミュージカルといえば、“(セリフの延長である)歌と(身振り手振りの延長である)ダンス”で構成されているものが一般的だろう。中にはダンス要素が極めて少ないミュージカル作品もあるが、それでも役者は動作を大げさにするなど、身体性が過剰に表出しているものがほとんどだ。舞台作品であろうと映画作品であろうと、その点に大きな違いはない。しかし、実写版『美女と野獣』では、そうしたミュージカル的な“歌とダンス”がほとんど見られなかった。舞踏会のシーンなどでも、歌はダンスのBGMとしての作用が強く、セリフの延長としては機能していない。さらに、“朝の風景”のようなダンスのないシーンでも、役者の身振り手振りは小ぢんまりとしている。そのため、本作をミュージカル映画と位置付けるには、どことなく疑問が感じられたのだ。
しかし、ミュージカル的なダンスシーンがないからといって、決して物足りないというわけではない。役者の身体表現が控えめな分、スクリーンの躍動感はカメラワークなどで補われていた。まず、カット割りがとても細かい。ミュージカル映画といえば、少し前に『ラ・ラ・ランド』のワンカット風オープニングが話題になったばかりということもあって、本作ではカットの細かさが余計に際立っていたように感じられる。また、長めのカットでも大胆なカメラワークが目立った。カットに合わせて背景の美術もテンポよく移り変わるため、画面には常に動作性が感じられ、音楽のノリとうまく噛み合っていたのだ。
「Be Our Guest」では、そうした画面演出に加えてCGもとても豪華だった。おそらく、この曲は本編で唯一歌い手がダンスも披露していて、ミュージカル色の強い曲だろう。しかし、ルミエールのダンスよりも派手なカメラワークとCGが全面に出ているため、やはり身体性はあまり感じられない。むしろ、CG部分があまりに多いため、実写なのかアニメーションなのか、一瞬わからなくなってしまうほどだった。
そもそも、城に住むキャラクターたちのほとんどはラストまでCGで描かれているため、リアルな身体性はゼロに近い。また、カメラワークもアニメ版に大きく寄せてあるので、実写でありながらもアニメーション的な側面が強く感じられるのだ。