春ドラマは“攻めの演出”に注目! 視聴率低迷でも光る『ひとパー』『貴族探偵』の世界観

 春ドラマが序盤から中盤に差しかかり、各作品の特徴だけでなく、全体の傾向が見えてきた。なかでも顕著なのは、演出家たちの突き抜けた仕事ぶり。

 前期の冬ドラマでも、『カルテット』(TBS系)の土井裕泰、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)の福田雄一、『視覚探偵 日暮旅人』(日本テレビ系)の堤幸彦、『嘘の戦争』(フジテレビ系)の三宅喜重、『東京タラレバ娘』の南雲聖一、『バイプレーヤーズ』の松居大悟ら演出家たちが、自らのアイデンティティを誇示するような個性的な映像を手がけていたが、今期はさらに“攻めの演出”が見られる。

見たことのない自由度、大胆な整理整頓

 近年、アニメやバラエティーのようなリアリティ度外視の演出が増えているが、さらにそれを加速させたのが、『人は見た目が100パーセント』(フジテレビ系)。『LIAR GAME』『失恋ショコラティエ』などで強烈なインパクトを放った松山博昭が、「ここまで遊ぶか」というほどハジけた演出を見せている。

 たとえば、「メイクのビフォーアフターで、首を360度クルリと回す」「幼児時代の回想シーンで、子役の体に桐谷の顔を合成で乗せる」「恋に落ちた瞬間、銃弾で胸をハート型に撃ち抜き、ピンクの液体が流れ落ちる」「ヒロインの好きな男性を人体模型に入れ替える」など、見たことがないほどの突き抜けた演出が目白押し。その他も何度となくサイケなイラストを差し込むなど、回を追うごとに自由度は増している。

 次に、『貴族探偵』(フジテレビ系)の演出で目立つのは、大胆な整理整頓。「1時間の中に女探偵・愛香(武井咲)と貴族探偵(相葉雅紀)のダブル推理を盛り込み、豪華キャストたちの見せ場も作らなければいけない」という難題をワイドショー風の事件解説、相関図ボード、おバカな再現ドラマ、トリックを説明するCG、スマホの音声アプリ「ギリ」などを使って整理しつつテンポよく進めている。通常、演出家は「説明的な演出はできるだけ避けたい」と考えるものだが、その割り切りは見事。

 ともに視聴率低迷に苦しんでいるが、むしろ「録画して繰り返し見るほど、その面白さや凄さが分かる」だけに、このままのスタンスを貫いてほしいところだ。

ファンタジー、熱さと戦い、映像美を追求

 ファンタジックな演出なら、『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)。演出の狩山俊輔は、『妖怪人間ベム』『怪物くん』『Q10』などを手がけた言わば、異色作の第一人者。怪物の佇まいから、その住み家、体にキノコが生える描写まで、ファンタジーにホラーとヒューマン要素を交えるなど、ヘビーになりすぎないための工夫が施されている。

 迫力のある演出なら、『小さな巨人』(TBS系)の田中健太。今作に監修として参加する福澤克雄の下で、『半沢直樹』『下町ロケット』などの演出を手がけてきただけに、“福澤イズム”あふれる力強い映像が見られる。真正面の顔面アップ、早口気味のセリフ回し、たたみかけるような細かいカットの連続など、熱さと戦いの凝縮という観点ではこれまでの作品に勝るとも劣らない。

 映像の美しさなら、『ツバキ文具店~鎌倉代書物語~』(NHK)。これまでも叙情的な映像を見せてきた黛りんたろうが、鎌倉の景色、手紙と文字、人々の心模様などを繊細かつ鮮やかに描いている。キャストの演技も味があるが、「背景の色彩や陰影を何気なく見ているだけでも十分楽しめる」という稀有な作品だ。

演出家が元気な現場は盛り上がる

 その他では、WOWOWとの共同制作で「息抜きなし」のハードボイルドな演出が光る『犯罪症候群』(フジテレビ系)、ハイテンポ演出が主流の中、じっくりと心の機微を描く『母になる』(日本テレビ系)、徹底してアクションシーンのディテールにこだわった『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)も、攻めの演出が見られる。

 ここではチーフ演出家の名前だけを挙げたが、もちろんそれ以外にも攻めの演出をしている人はいるし、刺激を受け合っているという側面もあるだろう。いずれにしても、演出家が元気な撮影現場は活気があり、キャストの技量も引き出されやすいなど、いいこと尽くめだ。

 攻めている分、「よくやった」だけでなく「やりすぎ」「悪ふざけ」などの批判があるのも事実。しかし、視聴者の意向を汲み、批判を避ける無難な脚本が増えつつある今、これらの突き抜けた演出は、ドラマ業界にとって希望の光に見える。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月間約20本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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