賛否両論のNetflix海外ドラマ、『the OA』は8時間にわたる壮大な「踏絵」だ
ネタバレになってしまうが、「銃撃犯を前にした5人がOAから習った変なダンスを踊る」だけのシーンが、なぜこんなにも感動的なのか。それは、そのダンスを実践する地点に至るまでにいかに5人の信仰が試されたかを知っているからであり、もっと言えば5人と共に視聴者もその試練を体験したからであり、その直前にはOAの話が作り話だったという決定的証拠を突きつけられているからであり、その中でも最後に奇跡を信じる意思が勝ったということが形になって示されているからだ。奇跡を信じる心が、俗世のど真ん中で新たな奇跡を起こしているからだ。
現実ならざる虚構=表現全般の役割は、究極的には、この現実に風穴を開けてくれることだ。一時の夢を見せることで現実生活を生きやすくしてくれるだけに留まらず、偶然の誕生に始まり必然の死で終わるこの現実から抜け出せる可能性を示すことだ。そして、現実そのものを意味あるものに塗り替えてしまうことだ。
このドラマの制作者の2人は、現実を塗り替える表現を作り出すことに誰よりも真剣で、そして、その表現によって自分たち自身が誰よりも真剣に救われたがっている。何よりの美点は、連続ドラマといういわば俗世そのもののようなメディアのど真ん中にいても、自分たちは救われたいんだ、という欲望を隠そうとしないことだ。そこが彼らの特別なところだと思う。
5人の「信者」の背景が描き切れていないなど、欠点がないわけじゃない。でも、志の高さという美点がそれを完全に上回っているし、クライマックスのシーンではそのヴィジョンを具体的に映像にすることに成功している。
何よりも、一定以上のクオリティーを備えた映画もドラマも溢れかえり、視聴者の時間を奪い合っている現代にあって、8時間のドラマを一気見するという行為にこれだけ「意味」を持たせているドラマは滅多にない。『the OA』は、見る「意味」のある稀有なドラマだ。
■小杉俊介
弁護士、ライター。音楽雑誌の編集、出版営業を経て弁護士に。
■作品情報
『The OA』
Netflixにて配信中
https://www.netflix.com/title/80044950