『ラ・ラ・ランド』デイミアン・チャゼル監督が語る、ジャズと映画の関係

 第89回アカデミー賞で最多13部門14ノミネートを果たしている、『セッション』のデイミアン・チャゼル監督が手がけたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が、2月24日に公開される。『ドライヴ』のライアン・ゴズリングと『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエマ・ストーンが共演する本作では、夢追い人の街ロサンゼルスを舞台に、売れないジャズピアニストのセブと女優志望のミアの恋模様が、華やかな音楽とダンスとともに描かれる。今回リアルサウンド映画部では、来日したチャゼル監督にインタビューを行い、『セッション』と『ラ・ラ・ランド』の関係性や、ジャズやミュージカルへの思いを語ってもらった。

「この映画では過去と現在のバランスを取りたかった」

 

ーー今回の『ラ・ラ・ランド』の構想は前作の『セッション』以前からあったそうですね。

デイミアン・チャゼル(以下、チャゼル):そうなんだ。僕は大学時代に初めて『Guy and Madeline on a Park Bench(原題)』というジャズ・ミュージカルを作った。この映画は大学の卒業制作のような作品だったから、作り終えてからもまたジャズ・ミュージカルを作りたいとずっと考えていた。ただ、あまり商業的な作品ではなかったから、スタジオもやりたがらなくて、当時は資金を得ることができなかったんだ。だから、予算的にも小規模な『セッション』を先に作ることにした。サンダンス映画祭での『セッション』のプレミア上映後、だんだんとお金が集まるようになってきたから、『セッション』の成功が今回の『ラ・ラ・ランド』に繋がっていることは間違いないね。

ーー『セッション』同様、『ラ・ラ・ランド』でもジャズが大きく取り上げられていますが、改めてあなたとジャズとの関係を教えてください。

チャゼル:僕は小さい頃から映画を観続けてきて、気づけば映画を作りたいと思い始めていた。自分自身の成長とともに常に自分の中にあったのが映画なんだけど、ジャズも同じなんだ。ジャズに関しては、10代の頃に学校でやらなければいけない必要性があって始めたものだったが、やっているうちにどんどん好きになっていった。そういう意味では、ジャズが僕の映画の中で取り上げられるのは、ある意味必然と言えるんだ。

 

ーー『セッション』と『ラ・ラ・ランド』ではジャズの取り上げられ方が異なりますね。

チャゼル:『セッション』はかなり自伝的な内容で、自分の経験が直接生きているけど、『ラ・ラ・ランド』はかなり間接的になっている。『セッション』では、僕自身が学生時代から演奏してきたビッグバンドのジャズを取り上げた。つまり、ジャズ全体ではなく、ジャズの中でも特定のジャンルについての話だね。一方、『ラ・ラ・ランド』ではライアン・ゴズリング演じるセブがジャズについていろんなことを言うが、彼が語ることに僕自身が必ずしも同意しているわけではなくて、「それは違う」と思うこともあるんだ。彼にとっては、40年代から50年代の伝統的なジャズこそが“ジャズ”であって、それ以外は認めていない。だけど、僕はそうは思わない。ジャズは動いていくものだし、時代と折り合っていかなければならない。現代とどう向き合っていくかが重要なんだ。

ーー『ラ・ラ・ランド』には、『雨に唄えば』(1952年)や『シェルブールの雨傘』(1964年)など往年のミュージカル映画へのリスペクトもふんだんに盛り込まれていましたね。

デイミアン・チャゼル (c)依田佳子

チャゼル:「昔はよかった」という人はたくさんいるよね。例えば、絵描きの場合は「ルネッサンス期が一番だ」、フィルメーカーの場合は「40年代から50年代のLAが最高だ」という具合に、ある時代だけを理想化してしまう人たちだ。でも実際は、どの時代にもそれぞれの限界がある。大事なのは、今の時代に生きている人たちにきちんと通じるものを作ること。この映画では、クラシックな映画と今の映画、昔のLAと今のLA、昔の音楽と今の音楽……というように、過去と現在のバランスを取りたいと思ったんだ。そのバランスがいらないのであれば、時代設定を40年代から50年代にして、時代劇のようにしてしまえばいい。僕が今回やりたかったのは、クラシック映画のプリズムを通して、現代のLAを描くことだったんだ。

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