現代日本の欠陥を問う『サバイバルファミリー』は、矢口史靖監督による“逆東京物語”だ

『サバイバルファミリー』は“逆東京物語”だ

 ロード・ムーヴィーのひとつのパターンとして、本作も家族の和解が達成されていく。夜空を眺める妻の手を握ろうとするも、スルッとかわされてしまう夫という、この夫婦の心の間の距離は、いずれ旅のなかで握られる「手の演技」として、埋められることになるだろう。このささやかな感動が、小津監督の『お茶漬けの味』における、不格好なお茶漬けが夫婦を結び付けるように、同様の愛らしいユーモアによって達成されているのである。

20170219-SurvivalFamily-sub2.jpeg

 

 このようなささやかなテーマに対し、大きな問題として扱われるのが、日本の構造的な「欠陥」であろう。一家にとって鹿児島に住むおじいちゃんは、『麦秋』や『東京物語』のおじいちゃん、おばあちゃんのように、家族から切り離された存在として孤独に描かれる。しかし、食料に困った鈴木家は、東京で忙しい日々を送っているときは見向きもしなかった鹿児島へ向けて、自転車をこぎ死に物狂いで向かうことになるのだ。この逆転、なんと皮肉かつ爽快な話だろうか。まさに「逆東京物語」である。

 小津監督の『東京物語』が痛烈に表現していたのは、「東京」に象徴された、経済的、功利的価値観が、かつての日本が持っていた人情的な古い価値観を蹂躙しているという状況である。このテーマは、まさにそのような価値観がさらに先鋭化を遂げている「いま」こそ描き直されるべきであろう。一部の業種が優遇される一方で、農業や漁業などの第一次産業は、これまで以上に軽視されているように感じる。地方は高齢化、過疎化が進み、食料自給率は低迷し続けている。古い産業や文化が死滅することで、都市を中心に日本全体が「生きる力」をなくしているのである。本作が描く問題も、まさにそれであろう。

20170219-SurvivalFamily-sub8.jpeg

 

 しかし本作は、同時に希望も描いている。電気が無くなった世界では、今まで構築されてきた文化が、いかに電気に頼ったものであったかが明らかになるが、そこで起きるのが「パラダイムシフト(劇的な価値観の変化)」である。米屋が大きな顔をし始め、目の見えない人がトンネルの案内業で活躍し、使い道のなくなったCDやDVDを使って「めんこ遊び」をするのが流行り、アウトドアの愛好者は水を得た魚のように活き活きとする。それは、「経済は成長し続けなければならない」という固定観念を打破するような、たくましい「後退」を示す、あり得たかもしれない、もう一つの現在であり、また来るべき未来の一つの在り方なのかもしれない。『サバイバルファミリー』は、このような代替的未来を予言しつつ、「こういう生活も、そんなに悪いもんじゃないかもね」と明るく言っているように感じるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

■公開情報
『サバイバルファミリー』
全国東宝系にて公開中
出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、菅原大吉、徳井優、桂雀々、森下能幸、田中要次、有福正志、左時枝、ミッキー・カーチス、時任三郎(友情出演)、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳、渡辺えり、宅麻伸(友情出演)、柄本明、大地康雄
原案・脚本・監督:矢口史靖
配給:東宝
(c)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
公式サイト:survivalfamily.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる