トランプ大統領はハリウッドにどう影響? A・ファルハディのアカデミー賞欠席などから考察
『別離』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞したときに世界中を驚かせたイランの新鋭が、5年後にさらに力をつけてアカデミー賞に舞い戻ってきたところだったのに、ファルハディのアカデミー賞不参加は多くの映画ファンを落胆させた。実は、今年の外国語映画賞は、ドイツ映画の『ありがとう、トニ・エルドマン』の下馬評が高く、『セールスマン』はオッズの二番手につけていた。皮肉な話だが、アカデミー賞の本選投票は2月13日から21日までで、その間に特定の諸外国への入国禁止令についてのデモや議論が進むと、『セールスマン』への注目が増し、受賞の可能性も高くなるという見方もある。
アメリカでは、物語の語り部や見せ手である俳優や監督が、自らの政治的主張をはっきりと述べるのはなぜだろう。日本の芸能人やエンターテイメントに従事している者が政治に介入することはほとんどなく、あるとするといきなりタレント議員になるというびっくりな状況が訪れるのみ。アメリカの俳優が政治について発言したからといってすぐに出馬に結びつかないのは、シュワルツェネッガー元知事くらいしかタレント議員がいないことが証明している。それでも彼らが公の場で主張を述べるのは、日本の俳優のようにCMに縛られるタレントではなく、演技や作品を通じて世の中に何かを訴えかける、表現者であるという自覚が強いからだろう。
Women's Marchで力強いスピーチを行ったスカーレット・ヨハンソンには今後、大人の女性の役が舞い込んでくるだろうし、世界中の映画関係者はアスガー・ファルハディ監督の作家性を守るために動くだろう。彼らが役柄や作品を超えて世界に主張を述べることによって、より優れた作品が生まれる土壌が形成される。私たち観客も、その成果となる素晴らしい作品を享受するほかになにができるのか、考えるときなのかもしれない。
(文=小川詩子/米国在住)
■公開情報
『セールスマン』
6月、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリシュスティ
配給:スターサンズ/ドマ
2016/イラン・フランス/123分/ペルシャ語/ビスタ/原題:FORUSHANDE
(c)MEMENTOFILMS PRODUCTION - ASGHAR FARHADI PRODUCTION - ARTE FRANCE CINEMA 2016
公式サイト:www.thesalesman.jp