福田雄一が見出したムロツヨシという才能ーー『勇者ヨシヒコ』の挑戦的な演技を読む
絶賛放送中の『勇者ヨシヒコと導かれし七人』において、魔法使いメレブを演じるムロツヨシは、ここ数年で、最も知名度が上がった俳優の一人と言えるだろう。使えない魔法を駆使し、ボケたりツッコんだりする奇妙な有様は、世代を問わず人気のキャラクターになっている。演技なのかアドリブなのか、表現者として、独特な存在感を発揮しながら、視聴者に強い印象を与えている。
この「勇者ヨシヒコ」シリーズにて、全話の脚本・監督を務める福田雄一は、インタビューにおいて、ムロツヨシのことを「僕の自由の象徴」と呼び、創作の盟友であることを隠さない。福田がムロを初めて認識したのは、『33分探偵』の時だという。作中で誘拐犯を演じたムロだったが、誘拐される子供を演じたのが福田の子供だっため、付き添いで来ていた福田の妻がムロの才能に気付き、その存在を福田に伝えたというのだ。それが2008年のこと。そこから徐々に福田雄一作品に登場するようになり、今では、なくてはならない存在になっている。
ムロツヨシの魅力のひとつとして、彼がいることで、何か挑戦的で攻めている作品なのではないかというイメージを与えることができるように思う。トリッキーで印象的な役柄や演技で強いインパクトを与えてきたムロを起用することで、いわゆる王道な(言い換えれば凡庸な)作品ではないのではないか、という視聴者の期待が高まるのだ。NHK朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』やTBSの『重版出来!』といった作品に起用された理由として、制作スタッフのそういった強い思い入れを感じてしまう。
飄々と存在感を見せつけるムロツヨシだが、決して、順風満帆な役者人生というわけではない。俳優をめざして大学を中退したものの、なかなか芽が出ず、その活躍が確認できるのは2005年の映画『サマータイムマシン・ブルース』まで待たなければならない。その時、ムロは29歳になっていた。それまでの間、単独で舞台を続け、時に孤独な研鑽に勤しんでいたのである。そんな逆境の中で培ったメンタルの強さや、一人芝居の経験から生まれた演技の引き出しが、人の心を掴む挑戦的な演技に繋がっているのではないだろうか。この舞台は「ムロ式」として、現在に至るまで継続されており、今やプラチナチケットとなるほどの盛況ぶりをみせている。