のん、上白石萌音、芳根京子、高畑充希……“方言の演技”に優れた若手人気女優たち

 言い回しやイントネーションの違いによって、各地域の言語文化の特徴を示している方言が、大きく注目を集めるようになったのは2010年頃のことだ。「方言を話す女子が可愛い」と各メディアで取り上げられるようになって、『方言彼女。』というドラマまで作られる人気を博した。実際問題、若者の方言離れは進んでいるようで、その地域特有の方言を話す人口は減少している。テレビドラマを見ていても、多くの場合は標準語が使われ(東京が舞台の作品が多いせいか)、方言が登場するとなると、登場人物が東京に出てきたばかりであることを表現するために使われるケースが目立つ。(メインビジュアル:(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会)

 それぞれの地域に根ざした物語が登場する映画やドラマになれば、「方言指導」というクレジットと共に、各地の方言を演技に取り入れる姿が見受けられるが、演技で方言を習得することは決して容易なことではないだろう。たとえば東京のアクセントに慣れた役者が関西圏のアクセントをある程度習得しても、現地の在住者から見れば、否が応でも違和感を感じてしまうものだ。

 そんな中で、現在公開中の映画『この世界の片隅に』でヒロインの声を務めるのんは、若手役者の中でも各方言への適応力の高さに定評がある。3年前に放送され、社会現象を巻き起こしたNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』では久慈弁を話すヒロインを演じた彼女。劇中に登場する「じぇじぇじぇ」というフレーズが流行語にまでなったことは記憶に新しい。

 近畿方言のひとつである播州弁を話す兵庫県の神河町に生まれた彼女が、中国地方の方言を習得することに苦労したというのはインタビューからも窺える(参照:のんが語る、“この世界の片隅に”見つけた新たな道 「かっこ悪いことって時々、必要なんです」)。しかも、今回の映画で彼女が演じる主人公・すずは、広島で生まれ、呉に嫁ぐことになるのだが、広島弁と呉弁は同じ県内であっても若干ニュアンスが異なる。広島弁をネイティブにする主人公が、徐々に呉弁を習得していく様を演じ切れているのだから、並大抵の技量ではない。

(c)2016「君の名は。」製作委員会

 もう一人、話題のアニメ映画から高い方言への適応力を持つ女優を紹介したい。興行収入184億円を突破し、日本映画歴代興収2位への浮上も見えてきた『君の名は。』でヒロインの三葉を演じている上白石萌音だ。同作では岐阜県の飛騨地方に住む女子高生を演じていたわけだが、特徴的な語彙が出るわけでもなく、時折語尾に飛騨弁のようなイントネーションが残るだけなので、若干中途半端な印象を受けないでもない。それでも、前述したように若者が方言離れをしているという前提を考えれば、このぐらいの描き方のほうがかえって自然なのかもしれない。

 鹿児島市出身の上白石は、出世作となった周防正行監督の『舞妓はレディ』では三つの方言を使うという難しい役どころに挑んでいる。初めてお茶屋を訪れる場面で、彼女の声を聞いた長谷川博己演じる言語学者の男は、すぐさまそれを鹿児島弁であると見抜くのだが、次の言葉を聞いて「津軽弁?」と不思議な表情を浮かべるのがひどく印象的だ。ふたつの正反対の地方の方言を話す彼女は、舞妓修行を積んでいくうちに徐々に商業的な京都弁をも習得していくのである。

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