『この世界の片隅に』のんに今年の最優秀主演女優賞を! 演技を支える「こころの遠近法」
自分のことを「ぼうっとしている」と述べるすずは、きびきびしているわけではないが、愚鈍なわけではない。逆だ。現実ではない物語を想像することで、むしろ、彼女の精神はたくましくなっているし、その分、自分に対して冷静でありつづけている。すずは、我を忘れない。後半、とんでもない悲劇に見舞われるが、むしろ、そのことによって、彼女の根本的な丈夫さがあらわになる。
こころは遠くにあるときと、近くにあることがある。それは、どちらも尊いことなのだ。この真実を、声という音像のみで、ここまで表現した演じ手を、わたしは他に知らない。
見えないことを見ること。それが絵を描くこと。 見えないことを見ること。それが映画を味わうこと。のんは、「こころの遠近法」を通して、それを教えてくれる。
■相田冬二
ライター/ノベライザー。雑誌『シネマスクエア』で『相田冬二のシネマリアージュ』を、楽天エンタメナビで『Map of Smap』を連載中。最新ノベライズは『追憶の森』(PARCO出版)。
■公開情報
『この世界の片隅に』
テアトル新宿、ユーロスペースほか全国上映中
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、澁谷天外
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
企画:丸山正雄
監督補・画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
プロデューサー:真木太郎
製作統括:GENCO
アニメーション制作:MAPPA
配給:東京テアトル
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト:konosekai.jp