成馬零一の直球ドラマ評論

恋愛ドラマの女王・北川悦吏子の新境地! 進化系イケメンドラマ『運命に、似た恋』が面白い

 原田の少女時代を演じているのがミスiD2014でグランプリを獲得して『ワンダフルワールドエンド』等の映画に出演している蒼波純だというのも見事なキャスティングだ。ミュージシャンの大森靖子を筆頭とする新鋭クリエイターたちに愛されている蒼波は『時をかける少女』に原田が出演した時と同じ15歳。今も地方在住の蒼波から感じるのはどこにでもいる普通の女の子の生々しさとファンタジックな美少女性が共存している姿で、『時をかける少女』の時の原田に通じるものがある。『運命に、似た恋』では、カスミが海辺で出会った初恋の少年・アムロとの思い出が回想シーンとして繰り返し挿入されるのだが、蒼波が演じたことで、この少女が、大人のカスミになったのだとちゃんと実感できるのだ。

 また、見ていて感心するのは、ユーリがオシャレなデザイン事務所を構えてセレブたちと交流する姿とシングルマザーのカスミが日々の労働に追われる姿の対比を丁寧に描いていること。クリーニング屋で働くカスミの仕事の描写を筆頭に個々のディテールはリアルなのだが、物語は童話のように幻想的で、この物語自体が相反する要素が平然と共存しているのだ。

 第4話では、カスミが、「君といると私、みすぼらしい気持ちになる」と、自分の気持ちを告白してユーリと別れようとする。対してユーリは「俺、クリスマスのイルミネーションじゃないから。あなたが夢みるための道具でもないから」「これでも生きている人間なんだから」と、カスミに対して憤りを吐露する。この台詞はそのままイケメン俳優として消費される斎藤の憤りそのものに聴こえた。カスミのアパートでお互いの心境を告白する場面は、ゆったりとした長回しのカメラワークで撮影され、緊張感のあるシーンとなっていた。その後、カスミはユーリがアムロだと気付き、晴れて相思相愛となるのだが、実はユーリの方は、何か秘密を抱えているらしい。おそらくユーリは嘘をついていて、アムロではない別の人物なのではないかと思うのだが、続きは果たしてどうなるのか? 

 迫真の演技とロマンティックなストーリーで引っ張っていく正統派恋愛ドラマである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『運命に、似た恋』
NHK総合 毎週金曜よる10時〜
出演:原田知世、斎藤工、蒼波純ほか
作:北川悦吏子
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/drama10/unmei/

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