上野樹里、“20歳差の恋愛”を成立させた眼差し 『お父さんと伊藤さん』が描く新たな家族のカタチ

 近年のタナダユキ監督作品は、家族をテーマにしたものが多い。

 『ロマンス』は長い間会っていない奔放な母親を探す話だった。大島優子演じるヒロインは、両親が離婚する前の幸せだった過去の足跡を追い、自分自身を見つめ直すと共に、母親の気持ちを少しだけ理解する。

 『四十九日のレシピ』は育ての母親の死をきっかけに、自分と同じように子どもを産まなかった義母の人生がなんだったのかを探す話である。それによって永作博美演じるヒロインは自分の人生と向き合い、夫や父親、そして死んだ義母と向き合うことができる。

 20代の大島優子は自分の起源を探し、30代の上野樹里は親との同居と自身のライフスタイルの確立に迷い、40代の永作博美は出産と夫婦関係で悩んでいる。歳を重ねるごとに愛するものと守らなければならないものは増え、選択しなければならないことも増えていく。問題に突き当たるたび、彼女たちのアイデンティティは揺れる。

 

 それは、私自身もいずれ通っていく道なのだろう。『ロマンス』のラストシーンで大島優子が、仕事中に偶然出くわした母親と笑顔で向き合うように。『49日のレシピ』で、永作博美が夫を受け入れ、彼の車の助手席に座って微笑むように。上野樹里もまた、父親を受け入れ、ちゃんと向き合おうと走るのである。

 最後、伊藤さんの傍から彩がだんだん遠ざかっていく姿を映す伊藤さんの主観ショットと、彩の傍からお父さんが遠ざかっていく姿を映す彩の主観ショットが交互に示される。それぞれが心のどこかで依存していた相手から離れ、自立しようとしていることを表している。それは、決して別離ではなく、新しい家族の関係性を再構築するためのそれぞれの自立なのだ。

(文=藤原奈緒)

■公開情報
『お父さんと伊藤さん』
全国公開中
出演:上野樹里、リリー・フランキー、長谷川朝晴、安藤聖、渡辺えり、藤竜也
原作:中澤日菜子『お父さんと伊藤さん』(講談社刊)
脚本:黒沢久子
監督:タナダユキ
エンディングテーマ:ユニコーン「マイホーム」(作詞:奥田民生、作曲:奥田民生)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
企画協力:講談社「小説現代」
制作プロダクション:ステアウェイ オフィスアッシュ
企画・製作・配給:ファントム・フィルム
(c)中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会
公式サイト:http://father-mrito-movie.com/

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