大根仁は伊丹十三の正統継承者か? モルモット吉田の『SCOOP!』評

モルモット吉田の『SCOOP!』評

『盗写1/250秒 OUT OF FOCUS』をいかに『SCOOP!』にしたか?

 時代の流れを踏まえて最も大きく変更されたのは中盤の見せ場だろう。オリジナルではロッキード事件公判をモデルにした法廷盗撮だったが、今回は連続殺人事件の犯人の顔を撮るというミッションである。失墜した権力者の顔から、凶悪犯罪者の顔へと時代を反映した変化に、フィクションなのだから、ここは権力者を追うべきでは?などと内心思いかけると、それを見透かしたかのように「読者が見たがっているのは、グラビア、袋とじヌード、ラーメン特集、それから……芸能スキャンダル。雑誌が反体制とかジャーナリズムを背負ってた時代はとっくに終わってんだよ」という台詞が聞こえてきて、納得させられてしまう。モラル・ハザードをテーマにしたオリジナルから、芸能ネタが中心の『SCOOP!』への変貌を軽薄と思えないのは、今年の写真週刊誌報道を見てもわかるとおり、極めて今日的な状況が映しだされているからだ。

 とはいえ、テレビ朝日とアミューズの製作だけに『コミック雑誌なんかいらない!』(86年)の様な実名で芸能人や事件が登場するような映画は不可能だろう。それならば、リアルとフィクションがせめぎ合う中で、どう魅力的な映像を見せてくれるかにかかってくる。政治家のホテル密会スクープのくだりは、前述のオリジナルと同じ設定に思えるが、ホテルの廊下で連れ立って歩いている程度ではスクープにならない。より困難なミッションであるベッドルームでの2人の写真が求められる。というわけでリメイク版独自の奇抜な作戦が展開するわけだが、そこからカーチェイス→福山と二階堂の “吊り橋効果キス”へと至るくだりは、本作屈指の快楽的なリズムで畳み掛け、大根の熟練の演出によって心地良く翻弄され、フィクションの世界を堪能することになる。

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 こうした見事なリビルドの一方で、オリジナルへの過剰なまでのリスペクトにも驚かされる。野火が静の車から飛び降りて橋の欄干から吐くシーン、ホワイトボードへ部数が表示されるシーン(オリジナルでは毎回手でマグネット数字を動かす)、監禁された野火をチャラ源が助けるシーン、静とチャラ源が肩を組んで六本木を飲み歩くシーンなどは、同じシチュエーションを自分ならこう撮るというアレンジとして観ていられるが、オリジナルをほぼ忠実に再現したシーンも散りばめられており、このこだわりには圧倒される。

 静とチャラ源が登る階段がオリジナルと同じ場所で撮影されているなどというのは序の口で、静の部屋へ野火が訪れるくだりは部屋の雰囲気も台詞もほぼ同じなのでいっそう再現ぶりは際立つ。ここに定子がやってきて静との意外な関係が明らかになるが、オリジナルで夏木マリが演じた定子を今回演じる吉田羊が絶品で、夏木のイメージが違和感なく継承されている。静の部屋から帰っていく野火のロングショットと、それを見送る静と定子が壁にもたれているショットに続いて編集部で連続殺人事件の犯人を盗撮するための作戦会議シーンで、ミニカーやフィギアを用いて無駄口を叩きながら練るくだりも完コピである(野火がリスのフィギアを用いるところまで同じ)。

 ここまで来ると、アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(60年)を完コピしたガス・ヴァン・サントの『サイコ』(98年)を思わせるが、この後の野火と静のベッドシーンも手のアップからパンダウンして静の髪を触り、互いの肩越しに2人を撮るというアングルまで再現する凝りようである。それをメジャー映画の枠でやってのけるところに、大根の「パクリというかサンプリングというかオマージュというか」の精神を失わずにいようとする意地を感じさせる。若き日に影響を受けた映画を再現したいという映画好きなら一度は夢見る妄想を実現させたというべきか。ヒッチコックは若き日に撮った『暗殺者の家』(34年)を後年、『知りすぎていた男』(56年)でセルフリメイクしたが、前者を「才能あるアマチュアの作品」、後者を「プロの作品」と自己分析してみせた。35歳の原田眞人が監督3作目として撮った『盗写1/250秒』と、48歳の大根仁がメジャーでの劇映画3本目として撮った『SCOOP!』の関係は、ヒッチコックのそれに近いものがあるのではないか。

以下、結末にふれています

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