監督と助監督、それぞれの仕事 菊地健雄インタビュー「映画人である前に、社会人として」

 瀬々敬久、黒沢清、熊切和嘉、石井裕也、大森立嗣、古澤健……第一線で活躍する映画監督の助監督としてキャリアを積み、昨年スマッシュヒットを記録した『ディアーディアー』で初監督を務めた菊地健雄監督。なぜ彼は、多くの映画監督から信頼されるのか。リアルサウンド映画部では、WEB番組『マチビト~神楽坂とお酒のハナシ~』(Youtubeで配信中)を手がけ、監督2作目を製作中の菊地監督へインタビューを実施。「映画を仕事とすること」をテーマに、これまでのキャリアを振り返りながら、盟友・染谷将太の魅力や映画への情熱について、たっぷりと語ってもらった。

突然の“セカンド”抜擢

−−初監督作『ディアーディアー』のチラシには、錚々たる映画監督たちから菊地監督への愛ある激励のコメントが届けられていました。まず、この映画界へ足を踏み入れた経緯から聞かせていただけますか。

菊地健雄(以下、菊地):大学を出て、そのまま就職するのはどうかなと思っている頃に、映画美学校のチラシを見たんです。現在ほど、映画に関する学校が多くなかった当時、バイトしながら通うことのできる点もよかったですし、黒沢清さんや高橋洋さん、万田邦敏さん、諏訪敦彦さん、佐藤真さんなど好きな監督の方々が講師陣だったというのもあって、大学卒業後に入学しました。映画で食べていこうと考えたのはそこからですかね。

−−その後、助監督としてキャリアを積んでいくわけですが、最初のきっかけは何だったのでしょうか。

菊地:きっかけは美学校フィクションコース高等科の瀬々敬久さんの実習でした。監督、カメラマン、録音など各パートにプロの方がきて、その下に助手として生徒が付くというものだったのですが、学校内でも「菊地は助監督だろ」という雰囲気がその頃から出来上がっていたんです。結局、このときはスクリプターとして参加したんですが、後に瀬々さんから、「お前は助監督の適性があるからやらないか」と『サンクチュアリ』(2006年公開・撮影は2003年)の現場に声をかけていただきました。ただ、助監督を経験しないで監督になる人も多い中で、改めて厳しい現場に入って怒られたり大変な思いをするのは嫌だなと思って、当時はそこまで乗り気ではなかったんですよ。それでも、瀬々さんの作品が大好きだったこともあり、プロの現場を見てみようという軽い気持ちで入ったんですね。そしたら、いきなりセカンドの助監督を任されて。

−−それはかなり異例のことだったんですか。

菊地:普通は順番として、演出部は雑務から始める“見習い”からなんです。見習い→フォース→サード→セカンド→チーフという順番で“昇格”していく。決して規模の大きい作品ではなかったですが、それでもほぼ素人の僕がセカンドを任されるのは割と異例のことで。瀬々さんは、お前ならできると言ってくれたんですけど、蓋を開けてみたらそれまでやってきたことがまったく通用しない。瀬々さんにもすごく怒られましたし、チーフ助監督の松岡邦彦さんからもほぼ毎日のように説教を受けました。本当にしんどかったですねえ。でも、この現場がきっかけで次々と助監督の話が舞い込んできました。映画の現場の仕事の回り方って、結局人の繋がりなんですね。特に助監督は大作から低予算まで人が足りていないので、ピンク映画や自主系映画の現場にスタッフがきて“人買い”のように斡旋されていくというか(笑)。

助監督として付いた作品の台本

−−その頃はもう助監督で食べていくことができる状態だったんですか。

菊地:ギリギリであったことは間違いないですけど、バイトをしなくてもいいだけのギャラはいただけていました。出発はいきなりのセカンド助監督でしたが、その後やはり助監督の仕事はちゃんと積み重ねていかないと身に付かないと思い、サードからやりなおし、幸運にも仕事が切れずに続きました。

−−実際、そのような状況の中でオフらしいオフはあったんですか。

菊地:それも巡りあわせですね。作品と作品の合間で2週間やひと月くらいオフがあるときもあれば、次の作品と重なるような形でスケジュールが進むこともありましたし。ひとつの作品が終わって、別の作品を手伝いに行って、その撮影が終わると今度は同じスタッフでまた違う撮影が始まる。

−−まるで昔の撮影所システムみたいな状態だったんですね。

菊地:僕は本当にラッキーだったんだと思います。次々と仕事に恵まれる人もいれば、そうでない場合もある。最初に入った現場で繋がりができないと次が続かなかったり……。この業界は入口が見えにくいんですよね。撮影所システムが崩壊してからは、映画の現場はほとんどフリーランスの集まりなわけですから。ただ、だからこそ入口さえ見つけてしまえば、現場は人が常に足りていない状況なので、仕事自体は見つけやすいですね。

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