『少女椿』はどこまで原作を再現できたか? 意欲的なキャスティングと生々しい描写を検証

 ワンダー正光の十八番芸である、瓶の中に体を入れるという奇術を見せる場面や、みどりが巨大化したり小さくなったりする場面は、古典的な映像トリックで表現している。山高帽が空中を浮遊して歩いている場面はなかなか面白く、印象的な場面であった。一方で、一部の奇抜な表現はアニメーションを併用しているという方法は、あまり功を奏しているとは思えないのである。みどりの首が突然伸びる場面は、技術的に難しかったのだろうか。普段からすらっと長い中村里砂の首が、『学校の怪談2』の岸田今日子のようにぐんぐん伸びたらどれほど面白い画面になったことだろうか。

 

 作品全体の時代背景が、昭和10年代の戦前を描いていた原作から、現代なのか過去なのか不明なものに変更されている。それによって、ネオンライトが輝く街の造形や、それと対照的な自然の描写がマッチして、無時代感を演出しているのは魅力的だ。また、アニメ版では退色したような色味で描かれていた全体のテイストを、あえてビビッドな総天然色で見せつけてくるのも面白い。空が青々と輝いているだけで、とてつもなく残酷で哀しさを帯びている。猥雑なサーカス団の室内の光景は、このくっきりとしたコントラストのおかげで印象的に映え、どことなく実相寺昭雄や鈴木清順のワールドを思い起こしてしまうのである。

 また、原作やアニメ版では「見世物小屋」として描かれていた舞台設定も、今回の映画では「サーカス団」として脚色されている。現代では「見世物小屋」は倫理的な問題にぶつかってしまうのだろうか。それでも、奇抜な描写の数々の中にも、きちんと一本筋の通った物語が用意されているあたりは、トッド・ブラウニングの『怪物團』をはじめとしたグラン・ギニョル映画のジャンルに仲間入りできるだろうか。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。

■公開情報
シネマート新宿ほか全国順次公開中
監督・脚本:TORICO
原作:丸尾末広「少女椿」(青林工藝舎)
出演:中村里砂、風間俊介、森野美咲、武瑠(SuG)、佐伯大地、深水元基、中谷彰宏
(C)2016『少女椿』フィルム・パートナーズ

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