『セカネコ』設定に見る“感動の方程式” 余命わずかな主人公はなぜ葛藤し続けるのか
そもそも日本映画における「感動」の方程式は、概ね「共感」で作り上げられている。現実から離れずにヒューマンドラマとしての「死」を見つめた、前述の作品とは異なり、本作はファンタジーという大きな要素を付け加えたことで、観客とは離れた位置に物語が飛躍してしまうのである。そこから観客の「共感」へと近付けていくためには、「恋人」「親友」「家族」という、シンプルなテーマに寄り添っていく必要が出てくる。ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』をはじめとした、ファンタジー要素を入れたヒューマンドラマは、ほとんどがこのテーマのどれかに帰結するのであって、本作はそれらをすべて集約させているということだ。
文字情報だけで想像力を働かせる文学以上に、映画はあらゆる情報を可視化させなければならない。そのまま引き継ぐことのできるセリフとストーリーだけでなく、より表層的な表現をどう加えるかが重要となる。つまり、映像になって初めて可視化された情報こそが、映画が原作を超える要となるのだ。本作でいうそれは主に、「自分と同じ顔をした悪魔」、「命と引き換えに消えていくものが消える瞬間」、そして「猫」であった。
佐藤健が一人二役を演じて体現する、主人公と同じ顔をした悪魔の存在は、軽薄なキャラクターではあるが、二人の佐藤健が薄暗い室内で向かい合っているという画面には面白みがある。さらに、携帯電話が手の中で歪みながら消えていったり、突然映画館が更地になったり、レンタルDVD屋に陳列されたDVDが瞬く間に書籍に変化する場面もなかなか見応えのあるものだった。そうなると、主人公と家族を繋ぐ、物語における重要な存在の「猫」が、もっと遺憾なく「猫らしさ」を発揮していれば、より映画として意味のある存在に成り得ただろう。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『世界から猫が消えたなら』
公開中
監督永井聡
原作川村元気
脚本岡田惠和
製作市川南
共同製作岩田天植
キャスト:佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、奥野瑛太、石井杏奈
配給:東宝
公式サイト:http://www.sekaneko.com/index.html