『ハウス・オブ・カード 野望の階段』連載企画 第4弾

デーブ・スペクターが語り尽くす『ハウス・オブ・カード』の魅力「史上ベストドラマの5本に入る」

デーブ・スペクター

 これまで3回にわたって展開してきたNetflixオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』総力特集。ラストとなる第4回では、TVプロデューサーとして活躍するデーブ・スペクター氏にインタビューを行った。『ハウス・オブ・カード』が放送開始された2013年当時から同作のファンだったというデーブ氏は、『ハウス・オブ・カード』のどのような点に魅力を感じたのか。アメリカのテレビドラマの歴史や、ワシントン、ホワイトハウスなどの再現度に至るまで、深く語ってもらった。

第1回:デヴィッド・フィンチャーのターニングポイント、『ハウス・オブ・カード』の画期性について
第2回:視聴者はいつしか共犯者の心理にーー『ハウス・オブ・カード』の“悪の魅力”
第3回:『ハウス・オブ・カード』は映画・ドラマのあり方をどう変えた? 西田宗千佳がその影響を解説

『ハウス・オブ・カード』は史上に残るベストドラマの5本に入る

ーーデーブさんはDVDが発売された2013年に、「バウムクーヘンのように層が多く、絶妙な脚本が映画100本より深みがある。ストーリーは言えないけど選挙法違反どころじゃない! HOCで裏切られないのは視聴者だけ!」というコメントを出されていたほど、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がお好きなんですよね?

デーブ・スペクター(以下、デーブ):そうなんです。『ハウス・オブ・カード』は海外ドラマの中でも別格で、正直言って、言葉では語れないぐらいのレベルなんですよ。「とにかく観ろ!」という感じ(笑)。要するに、普通の海外ドラマの魅力をいくら語っても、『ハウス・オブ・カード』にはたどり着かないぐらい、もう天国の存在なんですよね。

 

ーーデーブさんはどのような部分に魅力を感じたのでしょうか?

デーブ:まずこの作品の魅力のひとつは、脚本のレベルの高さです。ひとつひとつのセリフにものすごい説得力があって、まったく飽きない。かつてアメリカの地上波で放送されていたマーティン・シーン主演のドラマ『The West Wing』(邦題:『ザ・ホワイトハウス』)に少し似ている部分もありますが、それと比べても台本のウィットがすごい。皮肉や風刺がある上、揶揄の仕方もすごくて、脚本の素晴らしさが際立っています。それに加えて、役者たちも完璧すぎますね。主人公フランク役のケヴィン・スペイシーは、どちらかと言えば、“俳優が好きな俳優”で、“演技派の中の演技派”という感じ。ロンドンのシェイクスピアの劇場(オールド・ヴィック・シアター)に資金を提供して、自ら芸術監督を務めていたりもして、もともと実力派なんです。その彼が、この難しいセリフをうまくこなしている。フランクの奥さん・クレア役のロビン・ライトも存在感がすごくて、したたかさにも目を見張るものがあります。ちょっとヒラリー・クリントンっぽいところもあるけど、彼女よりスタイルがよくて美人ですね(笑)。フランクとクレアは、お互い支え合っているように見えるけど、りゅうちぇるとぺこみたいなビジネスカップルです(笑)。お互い裏切りあったりもするけど、どこかやっぱり本当に愛し合っているようにも見える。しかも、アタマで過去に2人の間に何があったとかをまったく言わず、話が進んでいくにつれて、その関係がわかってくる。それも非常にディープで味わいがあります。彼らはやっちゃいけないことも含めて悪いことをたくさんやっていきますけど、観ているこちら側は応援したくなる。スッキリするところもたくさんあるので、それもすごく新鮮です。

ーー複雑に絡んでいく人間関係も観ていてまったく飽きないですよね。

デーブ:そうなんです。フランクの腹心・ダグ・スタンパーや、訟務長官のヘザー・ダンバーらとフランクとの関係も非常に見応えがあります。日本のドラマや映画で同じようなシーンがあると、よく大きい声で怒鳴ったりしますけど、フランクはそうじゃない。その人に屈辱感を与えるために見下ろした言い方をする。カメラ目線で観客に語りかけるような珍しい手法を取っていたりもして、そういうところもクールですね。製作総指揮をデヴィッド・フィンチャーが務めているというのも大きいです。彼を信用して自由にやらせたのが、このドラマが成功した大きなポイントのひとつだと言えます。フィンチャー自身も上からちょっかいを出されないと思ったから、モチベーションが上がって、いいものを作れたんじゃないですかね。日本のテレビドラマのように、上の人が直しを入れたりすることもほとんどありませんから。シーズン1と2合わせて、1億ドルもかかっているので、ヘタな映画よりもスケール感がありますよ。

ーーワシントンやホワイトハウスの描写はいかがですか?

デーブ:昔のデパートの倉庫に非常に凝ったセットを作っているので、ワシントンやホワイトハウスのリアル感がものすごい伝わってきますね。すごくよくできている。アドバイザーも入っていて、アメリカの政治を忠実に反映しています。ワシントンって、ドラマで描かれているように、誰を味方にするとか誰を裏切るとかが、本当にすごい。そういうワシントンのからくりもうまく描写していますね。日本とアメリカでは政治のシステムが違いますから、民主党と共和党の2つしかないという意味でも、非常にわかりやすいと思います。

 

ーー政治面でも現在のアメリカが反映されていると。

デーブ:『ハウス・オブ・カード』が始まった2013年当時の政権はオバマ政権で、フランクも民主党ですよね。でも今で言うと、フランクはドナルド・トランプに近い。あの手この手を使うダーティさが(笑)。フランクは言うまでもなく生粋の政治家で、トランプとはバックグラウンドが違いますけど、『ハウス・オブ・カード』を観ていくと、こういう人が大統領になれるのかと思っちゃいますよね。でも、トランプを見てもわかるように、まんざらでもないんです(笑)。フランクはあの手この手を使って上り詰めていこうとしますけど、それを全部水面下でやっていく。しかも表では品格があるという。そういう表の顔と裏の顔を見比べていくのもすごく楽しいですね。

ーー歴代大統領でフランクみたいな人はいたんでしょうか?

デーブ:ちょっとビル・クリントンっぽいところもありますけど、実際にこんな人がいたら捕まっているでしょうね(笑)。この前、鳩山元総理ご夫妻と食事したのですが、奥様とその時も『ハウス・オブ・カード』の話をしたんですよ。テレビ番組の共演者の方々と海外ドラマの話をしたりすることもあるんですけど、みんな好きなんですよね。アメリカでは『ハウス・オブ・カード』と聞いたら誰でもわかるぐらいのレベルで、観ていないと友達をなくします(笑)。僕なんかも、周りで観ていない人がいたらすごくイライラしてしまうんですよ。話が合わないから。

ーーアメリカではそれぐらい影響力を持った作品なんですね。

デーブ:しかも、革新的で新たな基準を作ったという意味で、史上に残るベストドラマの5本に入ると思いますよ。とにかく、『ハウス・オブ・カード』は“映画”なんですよね。質感がもう映画で、それが何話も続いていく。画質が本当に素晴らしいのもそうなんですけど、撮影そのものが映画と同じレベルなんです。「優れたアメリカのテレビドラマは映画と同じ」とよく言われますけど、安易に言い過ぎじゃないかと思う。だから過去にもそういう触れ込みの作品が多くありましたが、『ハウス・オブ・カード』は本当にそう。むしろ映画を超えています。最近は作り込み過ぎて一発勝負のようなつまらない映画も多いですからね(笑)。あれもこれも要素を入れて大げさに作って、アカデミー賞とかもったいつけてプレミアをやったりしていますけど、テレビドラマはそういうこともないし、そういう意味でも映画の魅力を超えていますよね。ちょっと大げさかもしれないけど、もう一生映画を観なくてもいいぐらいに、僕は大満足しています。

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