成馬零一の直球ドラマ評論『とと姉ちゃん』二週目

『とと姉ちゃん』第二週で描かれた“情けないお父さん”像ーー高畑充希、いよいよ本格登板へ

 昭和十年。小橋常子(高畑充希)は十五歳となり、高等学校の四年生となっていた。次女の鞠子(相良樹)は三年生。三女の美子(根岸姫奈)は尋常小学校の四年生となっていた。母の君子(木村多江)は亡き父が勤めていた遠州浜松染工の下請けをしながら、会社から資金の援助を受けており、小橋家は貧しいながらも明るく暮らしている。

 そんな中、美子だけは父のいない寂しさから暗く落ち込んでおり、学校で孤立していた。常子は美子のために、美子の教室でおどけてみせるが、それが逆効果。二人の間には深い溝が生まれてしまう。それから数日後、小橋家に叔父さんの鉄郎(向井理)が戻ってくる。家族がいない間に家の中に忍び込んだ鉄郎は、小橋家の残り少ない米を食べつくしてしまう。このままでは食べるものがなく家計は火の車。悩んだ常子は町内運動会の二人三脚に出場して一位の米一俵を手に入れるために母と二人三脚の練習をはじめるのだが……。

 幼少期を描いた第一週が終わり、いよいよヒロインの高畑充希が本格的に登板する第二週。常子が女性でありながら強い父としてみんなを導いていくようなカリスマ性を見せる話になったら嫌だなぁと懸念していたが、展開されたドラマは、少女が父のように振る舞おうとするものの、現実にはうまくできない姿だった。

 常子は失敗もするし、いつも悩んでいる。「どうしたもんじゃろのぉ~」という口癖は、彼女が悩むヒロインであることの現れだ。あまり悲壮感がないのは、常子を演じる高畑充希のふわっとした存在感があるからだろうか。強がっても、おどけても、どこか不安そうに見えるのが彼女の良いところで、立派な台詞と不安そうな表情と声の二重性が、人間的な奥行きになっている。アニメ『TIGER&BUNNY』の鏑木・T・虎徹を筆頭に、西田征史は「情けないお父さん」を魅力的に描くのが得意な脚本家だ。少女でありながら父として振舞う常子も「情けないお父さん」だ。

 そんな常子のがんばりを呆れながらもサポートする小橋家。その意味で常子以外の小橋家の女性たちの個性がはっきりした回だったと言えよう。
中でも、魅力が際立ったのが次女の鞠子だ。最初は「運動は苦手だからと」二人三脚には出ないと言っていたが、父のことを玉置兄弟に馬鹿にされて、心に火が着いた鞠子は、あれだけ嫌がっていた運動会に参加。「ふじ、さん、ふじ、さん」という掛け声で走り、三位に入賞する姿には爽快感があった。優勝ではなく三位というのも程良い按配だ。

 また、見逃せないのが叔父さんの鉄郎(向井理)だろう。新しい商売に手を出しては失敗を繰り返しているダメな男だが、飄々としていてどこか憎めない。本作のプロデューサー・落合将は朝ドラ『ゲゲゲの女房』で向井を水木しげる役で起用したが、今回の向井はねずみ男のようなトラブルメーカー。しかし彼が米をたいらげたからこそ、二人三脚をやることにつながったこと考えると、彼にも存在意義があると言える。彼のような存在を許容しているのが、本作の優しさだ。

 本作の世界観は、悪い奴が登場しない性善説でできあがった牧歌的な世界だ。あれだけ常子をからかっていた玉置兄弟の長男・茂雄(大内田悠平)も常子の怪我を治療されて、コロッと惚れてしまう。この単純馬鹿っぷりは、この年の男だなぁと思う。

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