宇野維正の『ちはやふる』前編&後編評

マンガ原作映画の新たな金字塔! 『ちはやふる』はどうしてこんなに「最高!」なのか?

 監督の小泉徳宏は、前作『カノジョは嘘を愛しすぎている』でもマンガ原作を見事なバランス感覚で実写映画化してみせたこのジャンルにおけるエキスパートだが、本作『ちはやふる』によってマンガ原作映画監督の完全なトップランナーになったと言っていいだろう。『カノ嘘』も『ちはやふる』も、言うまでもなく原作は少女マンガであり、マンガ原作の中でも特に少女マンガ原作は恋愛に特化された作品として映画化されることが多く、また効率よくヒットにも結びついている。もちろん、『ちはやふる』でも恋愛感情は登場人物たちの大きな動機となっていて、それぞれの想いはとても切ないものとして胸を打つ。しかし重要なのは、そこで恋愛が成就するかどうかというところに物語のフォーカスが当たっていないことだ。むしろ、思春期の当事者が最も振り回されることになる恋愛感情の先にある、それを超越する「何か」を『ちはやふる』は描こうとしていて、実際に描き切ってみせる。

『ちはやふる –下の句-』より (c)2016映画「ちはやふる」製作委員会 (c)末次由紀/講談社

 そういえば、映画『カノ嘘』の顛末もそうだった。小泉監督は、少女マンガ原作映画のメインストリームに立っていながら、そのオルタナティブであり続けているのだ。おそらく、今回の圧倒的な出来映えの『ちはやふる』を観た多くの製作側の関係者からは、あらゆるジャンルの魅力的な企画がたくさん持ち込まれるだろうが、願わくは、現在の実写日本映画を代表するこのジャンルの改革者として今後も作品を撮り続けてほしい。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

■公開情報
『ちはやふる -上の句-』『ちはやふる –下の句-』
『上の句』公開中、『下の句』4月29日(金・祝)ロードショー
原作:末次由紀『ちはやふる』(講談社「BE・LOVE」連載)
監督・脚本:小泉徳宏
音楽:横山克
出演:広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、清水尋也、松岡茉優、松田美由紀、國村隼
(c)2016映画「ちはやふる」製作委員会 (c)末次由紀/講談社
公式サイト:http://www.chihayafuru-movie.com/

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