門間雄介の「日本映画を更新する人たち」 第2回

『セーラー服と機関銃 -卒業-』『ちはやふる』……門間雄介が“女性の映画”に携わる才能を分析

 少女が主人公の物語として、もうひとつ挙げておきたい3月の公開作は『ちはやふる -上の句-』だ。広瀬すずを主役に据え、競技かるたに情熱を注ぐ女子高生とその仲間たちの絆を描いたこの青春劇は、何より「君はひとりじゃない」というテーマから決して離れない脚本が優れている。漫画原作をベースにデフォルメされた動きや会話がくり広げられても、実写映画のリアリティが損なわれないのは、その程よいバランスを取る監督の手綱さばきにブレがないせいだろう。本作の監督・脚本は小泉徳宏。前作『カノジョは嘘を愛しすぎている』でも、少女漫画が原作のラブストーリーを地に足の着いた演出で実写化した彼だが、現在35歳にしてこの手のメジャー作品を扱う術にはもう手練れの感がある。笑わせるべきところで笑わせて、ほろりとさせるべきところでほろりとさせて。4月公開『-下の句-』も、2部作の後編にありがちな失速をまぬがれ、余韻が残るきれいな着地を決めてみせた。現在の日本映画で最も高水準のエンタメ作品を撮ることのできるひとりじゃないか。期待している。あと付け加えておきたいのは、広瀬すずに女子高生役を演じさせたらいま無敵だってこと。

 女性の映画といえば、2014年の韓国映画を日本でリメイクした『あやしい彼女』は、作り手の明らかな意図のもと、女たちの映画に見事生まれ変わった。突如20歳の容姿になった73歳の主人公が、新たな人生を生き直そうとする本作で強調されるのは、女の幸せとは何かというテーマだ。韓国版では息子だった主人公の子どもを娘に置き換え、母娘2代に渡る親子の絆を浮かびあがらせた脚色は、今回が初の映画作品となる脚本家の吉澤智子。ファンタジー調のコメディであるこの作品に、子育てに勤しんだ女たちへの愛情を重ね、涙が止まらなくなるようなエモーショナルな瞬間を生みだしている。

 監督の水田伸生は映画だと『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』といったハイテンションのコメディを手がけてきたが、テレビドラマでは『Mother』『Woman』のような女性を主人公にした繊細なヒューマンドラマを演出してきた。『Mother』や『Woman』が脚本を担った坂元裕二の色を濃く映したものだったとしても、ずっと不思議だったのはその大きな落差だ。『あやしい彼女』はそんな映画とテレビドラマのギャップを橋渡しする、コミカルさとシリアスさを程よくブレンドした作品になった。

 さて、どうしても触れなければならないのは、岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』についてだ。たくさんの少女たちを陶酔させ、虜にした『花とアリス』が公開された2004年以来、彼は日本を舞台にした劇映画をひとつも撮ろうとしなかった。その大きな理由のひとつだと僕がずっと考えていたのは、彼のセンチメンタルな映像世界を一手に作りあげてきた撮影監督、篠田昇を2004年に失ったことだ。でも『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、内容もビジュアルもかつての岩井作品と違わぬどころか、むしろ少女性を増し、その純度を高めた女性たちの物語のように思える。撮影は篠田に師事し、岩井が監督したAKB48のミュージックビデオ『桜の栞』や『悲しみの忘れ方 DOCUMENTARY of 乃木坂46』でもカメラを回した神戸千木。少女たちの息づかいをすくい取る彼の映像が、10数年ぶりとなる岩井の完全復活作に大きな貢献を果たしたと考えるのはうがった見方だろうか。

■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper's BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter

■公開情報
『セーラー服と機関銃 -卒業-』
全国公開中
出演:橋本環奈、長谷川博己、安藤政信、大野拓朗、宇野祥平、古舘寛治、北村匠海、前田航基、ささの友間、柄本時生、岡田義徳、奥野瑛太、鶴見辰吾、榎木孝明、伊武雅刀、武田鉄矢
監督:前田弘二
脚本:高田亮
原作:赤川次郎「セーラー服と機関銃・その後—卒業—」(角川文庫刊) 
主題歌:橋本環奈「セーラー服と機関銃」(YM3D/YOSHIMOTO R and C)
(c)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会
公式サイト:http://sk-movie.jp/

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