恋愛が強制されるホテルで、ダンスと性はどんな意味を持つ? 『ロブスター』の奇妙な世界

『ロブスター』の独創性に迫る

 では、「ダンス」はどうだろう。ランティモス映画の中で、とりわけ奇妙に映るのがダンスシーンだ。『ロブスター』でも相変わらずヘンテコなダンスシーンを見ることができるのだが、成立していないダンスが示すのは、抑圧に対しての身体の無意識の反抗である。そして、その無様なダンスを滑稽に見る、動かぬ我々への問いかけではないだろうか。ちなみに、ダンスが重要なモチーフになっているのは、ランティモスがまだ映画を撮る以前の90年代、ダンスシアター用映像を撮り続けていたことに由来しているはずだ。また、これらはヨーロッパ貴族的社会の抑圧とアメリカンポップカルチャーの病理への批判ともとれる。

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(c)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation. 

 このように語りだせば尽きないランティモス映画だが、本作『ロブスター』は初の英語劇でスター起用、テーマも「恋愛」であるから、毒気は満載ながら、これまでより遥かに親しみをもって観られる作品になっている。『籠の中の乙女』でファンになった方はもちろん、否となってしまった方も再挑戦してはいかがだろう。気は早いが、次回作は2017年に公開予定の『The Favourite(原題)』は、18世紀はじめステュアート朝末期のアン女王統治時代に起きた政治陰謀についての作品で、エマ・ストーンが主演だそうだ。ギリシャの奇妙な才能は、すでに現代映画の顔になりつつある。

 余談だが、本作のように独り身の男女が一箇所に集められ恋愛を義務づけられる、そんなテレビ番組がこの国にもあったような……さすがに誰も動物にはならなかっただろうけど。

■嶋田 一
ライター。87年生まれ。精力的に執筆活動中。動物にされるならヘビがいいです。

■公開情報
『ロブスター』
3月5日(土)公開
出演:コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジェシカ・バーデン、オリビア・コールマン、アシュレー・ジェンセン、アリアーヌ・ラベド、アンゲリキ・パプーリァ、ジョン・C・ライリー、レア・セドゥ、マイケル・スマイリー、ベン・ウィショー
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
2015/アイルランド・イギリス他/カラー/英語・フランス語/118分
原題:THE LOBSTER
後援:アイルランド大使館、ブリティッシュ・カウンシル
配給:ファインフィルムズ
(c)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation. 
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/lobster/

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