シュワルツェネッガー史上最大の珍作!  “戦わない”ゾンビ映画『マギー』が制作された背景とは

(c)2014 Maggie Holdings, LLC.All Rights Reserved.

 もう少し情報を探ろう。本作は2011年にスタジオ重鎮らが選ぶ“未製作の優秀脚本”、通称「ブラックリスト」に選出。ハリウッド業界内で大々的に評価されてきた過去を持つ。

 そもそもゾンビ映画の流れとしてはジョージ・A・ロメロによる伝統軸がある一方、『バイオハザード』や『ワールド・ウォーZ』といった超大作、さらにはアマチュア監督が予想外のヒットを放った『コリン』などもあり、その上で2010年にはフランク・ダラボンらが始動させたTVシリーズ『ウォーキング・デッド』という決定打も生まれた。現在ではもはやゾンビ物のアイディアも出尽くした感があり、2011年時点でフレッシュだった本作の脚本素材でさえ観客の目にはどう映るかわからない。旬なものが朽ち果てるスピードはあまりに早く、リスクも高いもの。それでもシュワちゃんは突き進んだ。ここに金の鉱脈があると信じたのか。あるいは今、自分自身が肉体派から演技派へとチェンジせねばならぬと感じたのかーー。

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 できれば本作を「ゾンビ映画」として期待して観るのはやめてほしい。むしろこれは肉体派シュワルツェネッガーが藁をもすがる思いで演技派へと移行しようとする修練の場。我々はその一場面に遭遇したにすぎないのだ(たぶん)。そのレッスン料と感じたのか、彼は本作の出演料を一切受け取っていない。

 もちろん、修練のためにはその導き手が必要だ。これが初監督作となるヘンリー・ホブソン(彼は『ウォーキング・デッド』のタイトル・デザインを手がけた人でもある)にその役目が務まったとは到底思えない。むしろ私は、本作で娘マギー役を演じたアビゲイル・ブレスリンこそが、シュワちゃんを演技派へと引き上げるべく手を差しのばし、手取り足取りの共演を通じて、いわば演技のインストラクターのような役割を果たしたのではないかと感じた。

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 彼女は弱冠5歳で『サイン』(02)にて映画デビューを飾り、『リトル・ミス・サンシャイン』(06)ではアカデミー賞の助演女優賞にノミネート。今年で20歳を迎える彼女の姿をネットで検索すると、こちらも随分と容姿がチェンジしてしまったことに驚かされるが、しかし本編における彼女の演技はこの映画にはもったいないほど熱がこもっている。シュワちゃんが眉間にしわを寄せて寡黙な分だけ、彼女が何とか作品を右へ左へと動かして成立させていると言っても過言ではない。二人だけのシーンなど、実質的にそのやりとりを演技へと昇華させているのは明らかにアビゲイルの方だ。ストーリー的には娘を守るべき父親が、実際にはここでは娘に守られ、いざなわれているというわけである。そんな彼らのぎこちない父娘ぶりは一見に値する。

 ゾンビであることは副次的で、つまり父娘の家族愛の物語、それが『マギー』。

 シュワルツェネッガーにとって『ターミネーター』(84)以来となる低予算映画であると同時に、おそらく彼の全キャリアを通じての最大の珍作として位置付けてもいい。もしもあなたにその変異を見届ける勇気が芽生えたなら、このレビューを記した甲斐があったというものだ。私は叫んだ穴を塞ぎ、何もなかった、何も見なかったような立ち振る舞いで、日常生活に戻るとしよう。

映画『マギー』予告編

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『マギー』
年2月6日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
監督:ヘンリー・ホブソン
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、アビゲイル・ブレスリン、ジョエリー・リチャードソン
2015年/アメリカ/95分/原題:MAGGIE/カラ―/ドルビーデジタル/シネマスコープ/G
配給:ポニーキャニオン 
(c)2014 Maggie Holdings, LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:www.maggie-movie.com

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