『ベテラン』監督が語る、キャストありきのシナリオ術「人間関係から社会問題が浮き上がる」

『ベテラン』監督が語る、シナリオ術

「最初からなんでも持っている方が、悪の部分が際立つと思った」

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――今回、ユ・アインさんが悪役に挑戦されていますが、ユ・アインさんを起用したきっかけは何だったんでしょうか。

リュ:今回のユ・アインさんの役どころは、タブーに踏み込む役で、悪いことばかりしている役でしたよね。そんな役だったので、キャスティングは難航していて、実際に断られたこともあったんですね。それで、険しい道のりだなと思っていた矢先、釜山国際映画祭でユ・アインさんにひさしぶりに会って。映画に関わる人同士って映画祭なんかで会うと、近況を話し合うものなので、それで、『ベテラン』の構想について話したところ、ユ・アインさんが関心を持ってくれたんです。彼は彼で少年のようなイメージを脱皮したいと考えていて、そんな役を探していたところだったようで、お互いの求めるものが合致したんです。私はその時点でも、期待しつつ、受けてもらえる保障はないなと思っていたんですが、シナリオを送ったところ、やってみたいという返事がきたんです。

――チョ・テオという役は、最初から、ユ・アインさんのような年代の、しかも普段は悪役のイメージのない俳優がやることを想定していたんでしょうか?

リュ:最初から、ハンサムでお金もあって、なんでも持っている。そういう人がやってこその役だと思っていました。その方が、悪の部分が際立つと思っていたので。

――今回の主演のファン・ジョンミンさんと、ユ・アインさん、ふたりの役作りはいかがでしたか。

リュ:ファン・ジョンミンさんに関しては、シナリオを書いてる時点からあてがきをしていたので、ソ・ドチョル=ファン・ジョンミンだったんですね。だから、役作りは簡単だったと思います。反対に、チョ・テオは、ユ・アインさんがキャスティングされてから徐々に変わっていきました。というのも、ユ・アインさんは、悪役をしたこともないし、私も一緒に仕事をしたこともない。それに、高いスーツを着る役を演じたこともなかったんですね。つまり、貧しい青年の役が多かったんです。だから、チョ・テオをユ・アインさんの中に引き込むのではなく、ユ・アインさんをテオに引き寄せようと思いました。そんな風にしてユ・アインさんが完成させてくれたと思います。

――リュ・スンワンの映画では、長きにわたってチョン・ドゥホンさんが武術監督をしていますが、監督とドゥホン監督は、どういう連携で作業をされているんですか?

リュ:ドゥホン監督とは十数年に渡って仕事をしてきて、ある程度パターンはできているんです。まず、台本を書く前から作業は始まります。「今度の映画はこんな人物が出てきて、こんな展開になると思うよ」と、ドゥホンさんに伝えると、それを彼がしっかり受け止めてくれるんですね。映画のシナリオの初稿ができるとまた送ります。そこでも、彼なりに、人物やストーリー展開をモニターして意見いってくれて、アイデアをくれます。そんな風にして実際に作業をスタートさせても、引き続きやりとりを繰り返して、それをシナリオに取り入れる。出資やキャスティングが決まる前から、アクションチームがスタイルをある程度作ってくれているんです。

 そして、キャスティングも決まり、次の準備段階に入ると、アクションのスタイルをスタントマンと一緒に見せてくれます。そこで私もまた注文していきます。映画の枠組みができて、俳優さんが練習の段階になると、ロケハンをします。アクションにとって、空間というのは非常に大切なものですからね。アクションのスタッフ、美術スタッフと会議して、どんなふうにアクションの空間を作っていくかを、また会議を重ねる。そうやっていろんなものが決まって、俳優の練習のプロセスに入っていくと、俳優さんも自分たちの意見があるので、彼らの意見を聞くことになります。

 俳優さんの準備が整うと、ドゥホンさんが、デジタルコンテを作ってくれて、そこでも私は要求を出して、修正をしていきます。そのあとは、撮影チームと美術チームで、アクションスクールにいき、その場所で、実際の撮影と同じような空間を作るんですね。限りなく本番に近い仮のセットを作り、そこで撮影をして、編集もする。その映像を見て、俳優もスタッフも、こんなアクションになるんだなと認識します。

 そんないくつもの過程を経て、いよいよ現場での本番です。でも、さんざん準備してきたのに、それをとっぱらって、修正することもあるので、アクションチームは、私と仕事をするのは、本当に大変だと思ってるでしょうね……。

(取材・文=西森路代)

■公開情報
『ベテラン』
12月12日(土)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:リュ・スンワン『ベルリンファイル』 
出演:ファン・ジョンミン、ユ・アイン、オ・ダルス、ユ・ヘジン、キム・シフ
配給:CJ Entertainment Japan
(c)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
公式サイト:veteran-movie.jp

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