生田斗真、山田涼介が見せつけたジャニーズの実力ーー作詞家zoppが『グラスホッパー』を読み解く
もう1人の注目したいのが、菜々緒だ。個人的に配役が発表されたとき、最も適役だと思ったのが彼女だった。菜々緒演じる比与子は、絵に描いたような悪女である。その悪女ぶりが完全には表現しきれていないのが残念なところだが、それでも山田涼介同様に、彼女の美しさがむしろ残虐さを際立てている。ドラマ『ファーストクラス』や、現在放送中の『サイレーン』でも見事に悪女を演じきっているように、彼女の役者としての個性は、これからも多くの作品で必要とされるに違いない。
原作を読んだ人は、鈴木の執念、殺し屋たちの美学、人間の凶暴さなど、重要な事象や、キャラクターの個性が描かれていないことに肩を落とすこともあるに違いない。しかし、大前提として、伊坂氏が設定変更を快諾したことを踏まえるべきだと思う。おそらく伊坂氏は、原作を1人でも多くの人に知ってもらいたいという思いから映画化を快諾したはずだし、そう考えるのはどんな表現者だって同じだろう。
ほかに気になってしまうのは、11年という時間が生んだ避けられないギャップだろう。スマートフォン、GPS、など便利な機器が増えたことで、それら無しで物語を進めること自体が不自然に思えるのは、仕方のないところだ。もちろん、こうした点を踏まえても、なお納得がいかないことは少なくない。原作ではかなり重要な役目を持っていた吉岡秀隆が演じる槿が、あそこまで地味な役どころになるのは予想外だった。逆に鈴木のフィアンセである百合子の職業や、裏社会のドンである寺原が迎える末路など、原作では描かれていない事実を知れるのは貴重である。
原作未読の人には、是非小説を読んでもらい、「違い」を楽しんでもらいたい。そうすることで、グラスホッパー(=トノサマバッタ)は密集して育つと、黒く変色し、凶暴になる。人間もしかり、というこの映画の根底にあるテーマをよりリアルに感じられるはずだ。
本作の結果次第では、もうひとつの殺し屋小説『マリアビートル』の映画化も夢ではない。伊坂ファンの1人としては、成功することを祈るばかりだ。
■zopp
作詞家、小説家、リリックプロデューサー、音楽プロデューサー、コトバライター。高校時代、初めてのアメリカ留学を経験。留学時、英語の勉強のために様々な海外アーティストの歌詞を翻訳している内に、作詞の世界に魅せられ作詞家を目指す。作詞活動と並行して、執筆活動、リリックプロデュース、作詞家の育成(zoppの作詞クラブの講師)、ネーミング・キャッチコピー(コトバライター)、テレビ・ラジオ・雑誌出演、学校での講義など、多岐にわたって活躍の場を広げている。代表作に「青春アミーゴ / 修二と彰」、「抱いてセニョリータ / 山下智久」がある。
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