オダギリジョー&中谷美紀が語る、“非”伝記映画『FOUJITA』が意図するもの

オダギリジョー&中谷美紀インタビュー

「無駄なものを排したところにある、もっと奥のものを描こうとしている」(中谷)

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(c)2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション

――実際の現場は、どんな感じだったのですか?

オダギリ:普段、お芝居をしていて……テレビや舞台、映画、まあいろんな分野があるんですけど、その場その場に合わせた芝居を、どこかバランス取りながらやっていたような気がするんですね。今までの経験上、こういう表現がこの場には適しているんじゃないかって自分で判断して、芝居をしてしまっているところがあったというか。だけど、小栗監督の作品には、そういう計算めいたものはいっさい必要ないんですよね。むしろ計算をすると浮いてしまう。小栗監督が作る世界は淡々として見えるかもしれませんが、その淡々とした芝居の中にも、観る人たちにすくい取ってもらいたい部分が、そこにたくさんあるんです。余白のなかにこそ、いろんなものが詰まっているタイプの監督だと思うんですよね。

――余白ですか?

オダギリ:ある時、小栗監督が仰ったんですが、1つのカットを撮る時、そのフレームにはもちろん俳優が立っているんだけど、そこには物があったり風が吹いていたり光が射していたり、絵の中にある全てのものがそのカットを構成している。俳優が1人で表現出来ることは限られているんだ、と言うんです。俳優が余計な芝居をしてしまうと、その他のものに意識が行かなくなりますもんね。そういう奥行きを考えた表現の仕方を、とても誠意を持って追求されている方だと思うんです。だから、そこに身を預けて、ひとつの作品に携われたことは、自分にとってすごくいい経験になったというか、俳優としてちゃんとゼロに戻してくれる、余計なアカを落としてくれるような経験になったと思います。

――中谷さんは、いかがでしたか?

中谷:私にとっては、小栗監督の『泥の河』(1981年)と『死の棘』(1990年)という2本の映画が、とりわけ記憶に鮮明に残っている素晴らしい映画で……映画史に刻まれる名作だと思うのですが、そのような監督とお仕事ができるというだけで幸せでした。とはいえ、監督のおっしゃることを自分が表現する……むしろ、監督は表現しないことを求めていらっしゃって、感情を台詞に込めずに話すというのが、とても難しくて。監督の思い描いていらっしゃるところに辿りつくのに、なかなか時間が掛かりましたね。オダギリさんは、それをもう、サラリとやってのけるので。

オダギリ:いやいやいや(苦笑)。

中谷:オダギリさんは、無駄な抵抗をなさらないんですよね。どうしたらこんなに力が抜けるんだろうっていうぐらい楽に演じていて……そこが素晴らしいですよね。私はどこか抵抗してしまって、それですごく時間が掛かってしまったのですが。台詞に抑揚を付けず、ゆっくりと間延びしたように言うのが、どうしても難しくて。途中で「気持ち悪い」って申し上げたら、監督に怒られましたけど(笑)。でもきっと、そういう無駄なものを排したところにある、もっと奥のものを、監督は描こうとしていらしたんですよね。何とかそれに近づくように努力しましたけれど……難しかったですね。

「この映画が素晴らしいのは、監督が観客の想像力を信じているところです」(中谷)

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(c)2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション

――先ほどオダギリさんがおっしゃっていた「伝記映画ではない」というのは、非常に重要な点だと思うのですが、観客はどんな気構えで、本作に臨めば良いでしょう?

中谷:この作品に携わって本当に素晴らしいなと思ったのは、監督が観客のみなさまの想像力を信じているところなんです。そこまで説明しなくても分かってくださるはずだという暗黙の了解と言いますか、日本人のインテリジェンスを信じているという。私はそこに感銘を受けました。

――いわゆる“説明台詞”のようなものは、いっさい無いですものね。

中谷:無いですね(笑)。実は、もうちょっと物語があったにもかかわらず、全部カットなさいましたから。ただ、そういう想像力って多分、日本人にはもともと備わっていたものだと思うんですよね。日本って、行間を察するような文化ではありませんか。

――良い意味で“空気を読む”というか……オダギリさんは、いかがですか?

オダギリ:今って、本当に分かりやすい映画というか、ちゃんと答えを出してくれるものだったり、どういう感情で観ればいいのかすぐに分かるような映画だったりが、日本映画の主流になっているような気がして……。

――ある意味、観客の想像力を必要としないような?

オダギリ:ええ。先ほど中谷さんがおっしゃったのとは、逆のものが多い気がするんです。で、俳優として映画に関わっている僕らとしては、それをちょっと残念に思ったりするんですけど……その一方で、お客さんもやっぱり残念に思っているはずなんですよね。そういう作品が多い現状を、すべての人が喜んでいるとも思えないし。もう少し能動的に映画を楽しみたいはず。ただ、フジタという人間をわかりやすく教えて欲しいと思っている方がこの映画を観に行っても、そこに求めていたものがあるかどうかは……。

――フジタの伝記映画には、なっていないということですよね。

オダギリ:はい。ただ、感じることって、ひとりひとりまったく違っていいと思うんですよね。みんながフジタの答えを求めて観に行くべきじゃないというか……それって、逆に気持ち悪いじゃないですか。ひとりの人間のひとつの側面だけを描く映画なんて、あるべきじゃないと思うし。その人のいろんな面を想像することによって、初めてその人物が立体化していくような気もするので。だから、フジタという人物像を捉えにいくというよりは、それを通じて豊かな時間を過ごすというか、そういうものに近い気がするんです。僕はこの映画を観たときに、本当に観て良かったと思えたんですよね。いろいろな事を考えることが出来たし、ゾクゾクするような感覚も味わったし。

――特に、終盤のイメージの美しさは、鳥肌ものですよね。

オダギリ:そうなんです。何か今の社会って、いろいろ大切なものを見失いやすいじゃないですか。文化的な豊かさが、軽視されているようにも感じるというか。そういうものを味わう余裕があんまり無い社会のよう気もするんですよね。時間とかお金ばかりが上に立っていて。この映画は、それとはまったく違うものを目指している映画だと思うので、是非一度立ち止まって、そこを感じてもらえたらなって思います。

(取材・文=麦倉正樹)

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オダギリジョー、中谷美紀

■公開情報
『FOUJITA』
11月14日(土) 角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:オダギリジョー、中谷美紀、アナ・ジラルド、アンジェル・ユモー、マリー・クレメール、加瀬亮、りりィ、岸部一徳
製作:井上和子、小栗康平、クローディー・オサール
監督・脚本:小栗康平
音楽:佐藤聰明
特別協力:フジタ財団
協賛:ANA、株式会社ティエラコム/文化庁/フランス政府外国映画租税優遇制度認定作品
2015年/日本・フランス/日本語・フランス語/カラー/126分/PG12
配給:KADOKAWA
(c)2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション
公式サイト:http://foujita.info/

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