綾野剛はなぜ、30歳を過ぎてからブレイクしたのか? 俳優としての特異性を考察

 20代の頃は『クローズZEROⅡ』(08年)で演じた漆原に顕著な痩身、長髪、色白、中性的なルックスだったが、現在はだいぶゴツく厚みを増した体つきに、無精髭、ボサボサの頭、目の下にくまがある状態がデフォルトスタイルになっている。『ガッチャマン』や『闇金ウシジマくん』『ルパン三世』といった作品の実写化作品で、すでに存在するキャラクターに外見から思い切り寄せて作りこむアプローチを取ってきたこともあり、3年という短期間で違和感なくイメージを変化させることに成功したのだろう。彼自身インタビューで「◯◯な役はイケメンにまかせます」と発言するなど、やはり、若手イケメン枠からの脱出に対して自覚的だったことが伺える。

 綾野と同世代で主演クラスの俳優は、妻夫木聡(34)、藤原竜也(33)、向井理(33)、小栗旬(32)、瑛太(32)、松田龍平(32)、山田孝之(31)、小出恵介(31)、森山未來(31)、松山ケンイチ(30)と粒ぞろいだ。綾野と、大学を卒業してからこの世界に入った向井理以外は、10代の頃から大勢の同世代俳優がキャスティングされる学園モノやヤンキーもので競い合い、舞台にも立ち、トライ&エラーを積み重ね、ここまで生き延びた猛者たちだ。綾野はその時期をショートカットして、多くの俳優をごぼう抜きし、わずか3年でこのAクラスの俳優たちに肩を並べて立っている。この異例のキャリアそのものが、綾野の特異性を象徴しているといえる。

 それができたのは、『A-STUDIO』(TBS)で本人も認めているように、小栗旬が所属する事務所トライストーン・エンタテイメントへの移籍が大きい。事務所の代表を務める山本又一郎は、かつて沢田研二が主演した伝説の映画『太陽を盗んだ男』を製作した、辣腕映画プロデューサーである。近年は小栗の主演作を製作し、小栗は所属俳優の筆頭として山本社長と二人三脚で歩いている。その小栗が「俺と心中してくんねえ?」と、自らスカウトしたのが『クローズZEROⅡ』で共演した綾野剛だった。移籍後は小栗の監督作『シュアリー・サムディ』(10年)や事務所製作の『ルパン三世』(14年・北村龍平監督)などに出演する一方で、大小様々な映画やドラマに立て続けに出演してきた。そして初めて、山本プロデュースで綾野剛の単独主演となった作品が、今年5月に公開された『新宿スワン』だったのだ。俳優としての真価と賞品価値が問われる絶対に失敗できないこの作品は、週末観客動員数でディズニー映画『シンデレラ』の6週連続1位を阻止し、首位スタートを切る。綾野剛は客を劇場に呼べる看板俳優として見事に結果を残すことに成功したのだ。

 そして綾野は、10月スタートのTBSドラマ『コウノドリ』で、連続ドラマ単独初主演を果たす。心優しき産婦人科医と、ミステリアスな天才ピアニストという、これまでの役柄とはまったく違うキャラクターでどんな芝居を見せるのか、主演俳優としてドラマの中心にどう立つのか、注目だ。

■須永貴子
インタビュアー、ライター。映画を中心に、俳優や監督、お笑い芸人、アイドル、企業家から市井の人までインタビュー仕事多数。『NYLON JAPAN』『Men's EX』『Quick Japan』『Domani』『シネマトゥディ』などに執筆。3年半にわたり取材と構成を担当した俳優・小出恵介の対談集『俺の同級生』(宝島社)が7月に書籍化。