なぜ人々はスパイ映画を好むのか? 『M:i5』『キングスマン』からジャンルの魅力を探る
伝統と革新が紡ぐスタイリッシュな魅力
話を戻そう。時にスパイ映画は、歴史にオマージュを捧げることで劇的進化、いや突然変異を遂げることがある。9月11日公開の『キングスマン』はまさにその典型と言っていい。
キングスマン、それはロンドンにある老舗高級テーラーに秘密の入口を持つスパイ機関のこと。第一次大戦以降たびたび世界を悪の脅威から救ってきたという彼らがこのたび新メンバーの募集を開始し、シングルマザーの家庭に育った一人の青年に白羽の矢が立つのだが......。
何よりも見どころは、オスカー俳優コリン・ファースがオーダーメイドのスーツを着こなし、主人公の青年を導く紳士スパイとして優雅に大暴れするシーンである。『キック・アス』シリーズのマシュー・ボーン監督が紡ぐガジェット満載のアクションはとにかくスタイリッシュかつ奇想天外な魅力がたっぷり。さらに「スーツとは?」「マナーとは?」という紳士教育の問いかけも備えており、スパイ物でありながら、若者の成長物語としても一級品となっている。
60年代のエッセンスをギュッと凝縮
また本作は、ヴォーン監督が幼少期にどっぷり浸かったスパイ物のエッセンスを凝縮させている。『007』はもちろん、『おしゃれ(秘)探偵』『0011ナポレオン・ソロ』『電撃フリント作戦』シリーズなど、オマージュを捧げられたスパイ物は枚挙に暇が無いほど。
また、キングスメンのボスとして60年代の『国際諜報局』シリーズにてジェームズ・ボンドに並ぶ人気を博したマイケル・ケインを起用しているのがニクい。当時彼が演じた"ハリー・パーマー"は、007のアンチテーゼとも言うべきリアルなサラリーマン・スパイだったが、『キングスマン』では彼にならってメンバー全員がスーツに黒ぶちメガネをかけているという凝りようなのだ。
こういった濃厚なオマージュと監督独自の強靭な創造性がケミストリーを巻き起こし、スパイ映画を全く新たな文脈で起動させようとする。そこに抗い難い面白さがある。こういった後代のクリエイターのジャンル愛の深さもまた、スパイ映画が色褪せない理由ではないだろうか。
バラエティに富んだスパイ映画大集結
最後に、今年公開を迎える注目作も駆け足でご紹介しておこう。まずは『007』の影響を受けたTVシリーズ「0011ナポレオン・ソロ」が映画『コードネームU.N.C.L.E.』(11月14日公開)として復活する。マシュー・ヴォーンの盟友、ガイ・リッチー監督作なだけに、60年代を舞台にしたクールな映像センスと小気味いい語り口が期待できそう。
また、10月にはアメリカでスピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』が封切られる(2016年に日本公開)。こちらは冷戦期、鉄のカーテンの向こう側に不時着したスパイの引き渡しをめぐって、大統領の密命を受けた弁護士がギリギリの駆け引きを繰り広げるというもの。
そして極めつけは12月4日公開『007/スペクター』だ。前作からの続投となるサム・メンデス監督が、シリーズお馴染みの悪の秘密結社"スペクター"を復活させることに注目が集まっている。2015年の大トリとして、さらにはスパイ映画を牽引してきた立役者の新たな一手としても、どんなスパイ像を魅せてくれるのか非常に楽しみでならない。
■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter
■公開情報
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
公開中
公式サイト
『キングスマン』
9月11日公開
公式サイト
・メイン画像クレジット
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』/(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.