なぜ『タイラント・ソード』は伝説となったのか? 藤田一己の突き抜けたメカニズムとオタクシーンの記憶

伝説の『タイラント・ソード』復刊と80年代

 株式会社ホビージャパンより先日刊行された『TYRANT SWORD Of NEOFALIA タイラント・ソード』。1980年代の連載を40年越しにまとめた一冊だが、Amazonでは品切れになるなどファンの間で話題を呼んでいる。

 本書は、月刊ホビージャパン1987年9月号から1988年2月号まで連載されたフォトストーリー「TYRANT SWORD Of NEOFALIA(以下タイラント・ソード)」全5回、そして2024年12月号に掲載された、デジタルモデリングで主役メカのタイラント・ソードをフルスクラッチビルドした企画をまとめたものである。

なぜ幻の作品となったのか? 藤田一己の真骨頂

『TYRANT SWORD Of NEOFALIA タイラント・ソード』(ホビージャパン)

 「タイラント・ソード」は、まとめて読むのが長らく難しかった作品だ。なんせ連載されていたのは今より40年近く前。わずか5回の連載だからか別冊化・書籍化もされておらず、読もうと思ったら当時のバックナンバーを探すしかない。にも関わらず、マニアの間では妙に知名度の高い作品でもあった。

 その理由には、連載でのメカデザインを担当した藤田一己氏の存在があるだろう。「タイラント・ソード」は、『機動戦士Zガンダム』の世界をベースとした模型誌オリジナルのフォトストーリーであり、作中にはモビルスーツを強化・発展させたメカとして「ソード」というカテゴリーの人型ロボットが登場する。主役メカであるタイラント・ソードをはじめ、これら「ソード」のデザインを担当したのが、藤田一己氏だ。

 藤田氏は1964年生まれ、21歳ほどで『機動戦士Zガンダム』のメカデザインに抜擢されたという人物である。難航した主役機・Zガンダムのデザイン作業をまとめあげた力量を持ち、さらに『Zガンダム』ではメッサーラやギャプランなど数多くのモビルスーツのデザインを行なった。さらに『装甲騎兵ボトムズ』の外伝『青の騎士ベルゼルガ物語』でもデザイン協力としてクレジットされている。「タイラント・ソード」連載当時は、まだ23歳ほどの若さだったことになる。

 この藤田氏のデザインの特徴が、鋭角的でケレン味のあるデザインである。ミリタリー的な重厚さというよりはバイクやレース車両のような雰囲気があり、カウルと内部メカの存在を窺わせるデザインラインは藤田氏の特徴だ。ぎゅっと詰まっているのではなく放射状に各ユニットが伸びている形状は、立体としての見栄えも充分。層状に重なったユニットと、各部が尖った挑発的なデザインは、藤田氏の真骨頂といえる。

 この「藤田味」がどの作品でも強く全面に出るのも、藤田氏のデザインの特徴である。特に『装甲騎兵ボトムズ』の外伝的作品である『青の騎士ベルゼルガ物語』に登場したテスタロッサは、従来の『ボトムズ』登場メカとは一線を画する尖ったデザインとなっている。『タイラント・ソード』の登場メカも『ガンダム』関連の作品としては極めて異質なデザイン。加えてそこに「すごい動力源を積んだ最強メカ」的な設定が乗ることも多く、このデザインと設定の味の濃さを楽しめるかどうかが、藤田氏が参加した作品を見る上でのキーとなるだろう。

 実際改めて『タイラント・ソード』を見ると藤田氏の筆は冴えまくっており、描線にも勢いがある。登場する「ソード」は大河原邦男的モビルスーツのデザインラインを大きく逸脱しており、確かにこれをモビルスーツの枠に含めるのはムリがあるかも……と納得してしまう見た目だ。いくら外伝的作品といえども、ガンダムシリーズ、それも宇宙世紀を扱った作品で「モビルスーツより上位の"ソード"という人型メカが存在する!」という大暴れをしたのは前代未聞ではないだろうか。しかしデザイン自体は今見ても充分かっこよく、伝説的作品となったのも理解できる。

80年代模型誌の熱気

 藤田氏のデザインの魅力に加えて、もうひとつ感じるのは模型誌でストーリーを語ることができた時代の熱さである。連載当時の80年代はインターネットが普及しておらず、作品の映像を視聴する方法も限られていた。そもそもTV版『機動戦士ガンダム』の映像が初めてソフト化されたのが、1998年のLD発売時。「動くガンダムの映像を見る」こと自体が、当時は現在よりもずっと難しかったのだ。

 そんな中、専門メディアとしての模型雑誌の立ち位置は、現在よりずっと重いものだった。そこでは、新製品情報やプラモデルの改造の仕方と並んで、オリジナルの物語を紡ぐことができたのである。80年代は出版メディアにおいてそういった試みが花開いた時期であり、ホビージャパン以外にもメーカーが相次いで広報誌やコミック誌を出版し、そこでもまたオリジナルのストーリーが量産されていた。『タイラント・ソード』は、そういった時代だからこそ成立した作品と言えるだろう。今でも模型誌ではフォトストーリーなどが掲載されているが、「物語を語るメディア」としての重みは、当時と今では比べ物にならないはずだ。

 こういった雑誌オリジナルの企画は、「公式」のハンドリングが緩いおおらかな時代だからこそ成立したものだと考えられる。藤田氏によるデザインにしても、版権元ががっちりと入り込んでいたらあの見た目にはならなかったことだろう。『タイラント・ソード』からは、「大人の事情」がまだまだ入り込んでいない遊び場で、若者たちが勢い任せで突っ走っていた、当時のオタクシーンの空気が伝わってくる。

 こういった雑誌オリジナルのガンダム関連企画は、あらゆる面で過剰だった『ガンダム・センチネル』で行き着くところまで辿り着き、一方ではSDガンダムが大人気となりながら、時代は90年代を迎える。その後はガンダムというシリーズのありようも変化し、80年代のような野放図な状況は今後二度と発生しないだろう。

 そんな時代の空気を密閉した「タイラント・ソード」を改めてまとめ直したのは、ホビージャパンにしかできない仕事である。伝説的連載が手軽に読めることは、現在のガンダム関連作品しか知らない若い読者にとっても新鮮なはず。「これがガンダム!?」と驚いてしまうであろう本書から、80年代の熱気を読み取っていただきたい。

■書誌情報
『TYRANT SWORD Of NEOFALIA タイラント・ソード』
著者:ホビージャパン編集部
価格:2,200円
発売日:2026年9月30日
出版社:ホビージャパン

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