『ヒロアカ』堀越耕平の新作読切はなぜホラーだったのか? 少年の心を掴むために仕込まれた“恐怖”の正体

 『僕のヒーローアカデミア』を10年にわたり連載し、世界的な大ヒットへと導いた堀越耕平。連載完結から約2年、待望の新作読切『笑わないでよ しじまさん』が「週刊少年ジャンプ」37・38合併特大号に掲載され、大きな反響を呼んでいる。

僕のヒーローアカデミア公式 X(@myheroacademia)より

 

堀越耕平 X(@horikoshiko)より

 物語の舞台は、海沿いの政令指定都市・このしろ市。「見えざるもの」が見えてしまう霊感体質の高校生・安曇(あずみ)は、密かに好意を抱く同級生・黙阿多(しじま あた)のことが気になっていた。

 つい最近までクラス内で虐めの対象として蔑ろにされていたように見えたしじまさんが、なぜか急に人気者として扱われ始めたのだ。当のしじまさん自身も、どこか嬉しそうに微笑んでいる。

 しかし、その劇的な変化の裏には恐ろしい理由があった。この街に古くから残る因習、「生け贄制度」の贄(にえ)として、彼女が選ばれたからだった。

「見えない恐怖」に託された、思春期特有の存在不安

 本作が一目置かれた最大の理由は、堀越耕平が得意とする「怪獣・異形デザインの圧倒的造形力」が、そのまま純度の高い「ホラー」として機能している点にある。

 しかし、それは単に読者を驚かせるだけのショックホラーにとどまらない。61ページという限られた紙幅の中で描き出されているのは、思春期特有の切実な葛藤だ。

 主人公の安曇が抱くのは、自分だけが視えてしまう体質への困惑と、明確な夢もないまま大人へと近づいていく焦燥感。一方のしじまさんもまた、自身の存在価値に対する希薄さから、忌まわしき「生け贄」という役割にすがることで「自分は必要とされているのだ」と信じ込もうとする。

 誰からも認識されない孤独と、歪んだ形であっても認められたいという承認欲求。人間関係の不確かさや将来への漠然とした不安など、青春期特有の生々しい感情が、ホラーという意匠を通して鮮烈に可視化されているのだ。

タイトルに隠された「12文字」の符合と、受け継がれる熱量

 本作は掲載直後からマンガファンのみならず、業界内でも大きな反響を巻き起こした。テレビ番組プロデューサーの佐久間宣行をはじめ、多くのクリエイターがSNSで本作のクオリティを絶賛している。

佐久間宣行 X(@nobrock)より

 画力の美麗さは言わずもがなだが、評価されているのはそのマンガ表現の巧みさだ。恐怖という暗いトリガーから始まりつつも、物語は次第に堀越作品の真骨頂である、ボーイ・ミーツ・ガールの熱い青春劇へと旋回していく。

 また、本作のタイトル『笑わないでよ しじまさん』が、前作『僕のヒーローアカデミア』と同じく、読み仮名ベースで「12文字」で構成されているというギミックにも触れておきたい。

 偶然の符合か、あるいは作者の周到な意図か――。かつて「無個性」の少年が英雄へと駆けていったように、今作でも怪異を前に一歩を踏み出す少年の姿が描かれており、前作の精神的な系譜を感じずにはいられない。

 ラストシーンで見せた「特殊な境遇を背負ったヒーローの芽生え」とも言える展開は、まさに今後の物語の広がりを強く予感させるものだった。これが単発の読切にとどまるのか、今後の大型連載への布石なのかは定かではないが、安曇としじまさんが今後世界をどう切り拓いていくのか、連載化を是非とも期待したいところだ。

 恐怖と向き合うことで切り開かれる、少年少女の新しい世界。

 なぜ、安曇はしじまさんに笑ってほしくなかったのか。

 その美しくも切ない答えと、堀越耕平が放つ新たなストーリーを、ぜひ誌面を手に取って体感してほしい。

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