『ガールフレンド』ひさまつえいとが語る、“腹が立つキャラ”を描く理由 「怒りが読み続けてもらう力になる」
「今度こそ、幸せになれるかもしれない」。そう期待しては、相手の思いがけない一面に傷つけられていく26歳のハナ。ひさまつえいとの漫画『ガールフレンド』は、自分に自信を持てない彼女がさまざまな男女と出会うなかで、恋愛に潜む依存や欲望、人間関係の危うさを描いていく。6月16日からは、同作を原作とする 実写縦型ショートドラマも配信され、注目を集めている。
読む人自身の恋愛観や他者を見る目を映し出し、時に居心地の悪さを覚えさせながらも、先を読まずにはいられない本作は、どのようにして生まれたのだろうか。原作者のひさまつえいとに、企画の出発点やキャラクターの作り方、メディアミックスに対する考えを聞いた。
主人公・ハナはアバターとして優秀
――原作『ガールフレンド』は、どのような発想から生まれ、現在の形へと固まっていったのでしょうか。
ひさまつえいと(以下、ひさまつ):私は出版社やレーベルの特色にかなり合わせて作品を作るタイプなんです。DMMグループのCLLENNで作品を出すのであれば、そこで読んでくださる方に届きやすいものがいいだろうと。読者層を考えると、少し性的な要素のあるコンテンツが合うのではないか、というのが最初の企画の種でした。
ただ、普段は女性向けジャンルのお仕事をいただくことが多く、これまで私の作品を読んでくださった方も女性が多いんです。そこで、女性の読者の方が物語に入りやすいアバターとして、ハナのような主人公が必要なのかなと考えました。
26歳という年齢も、広告がよく出ている作品などを参考に、作品を読んでくださる方の年齢層を想定して決めました。ハナ自身は、特別な仕事をしているわけでもなく、かわいくないわけでもない。でも、誰もが振り返るほど目立つ子でもない。読者の方が身近に感じ、物語に入り込みやすい人物像を考えた結果、ハナのキャラクターが形作られていきました。
――そばかすにぱつんと切りそろえたボブなど、ハナのキャラクターデザインはどのような考えから現在の姿にたどり着いたのでしょうか。
ひさまつ:この作品は青年レーベル「DEDEDE」の作品なので、メインターゲットが男性になる可能性がある。一方で、これまで私の作品を読んでくださった方には女性が多い。その兼ね合いを考えると、嗜虐性と庇護欲のどちらも取る必要があるのかなと思ったんです。
どういう女の子なら、かわいそうで、かわいくて、幼く見えるのか。さらに、どういう子が世の中から少し外れてしまいそうなのか。媚びているわけでも、自分を持っていないわけでもない……その絶妙なラインを探りました。
内巻きのボブにはしない方がいいのかなとか、短い前髪から眉毛が見えた方が、表情も伝わりやすいかな、とか。そばかすも、あまり主役には振られない要素ですよね。ただ、ハナは「どこにでもいる誰か」である必要があった。そうしたアバターとしての優秀さを考えた結果、あの姿になりました。
――ハナを主人公として描くうえで、大切にしたことはありますか。
ひさまつ:漫画を商品として作らせていただく以上、ある程度は数字のことも考えます。そこで、「怒りこそパワー」といいますか……何かにずっと怒りながら読んでもらえればいいのかなと。
「この子にも問題があるんじゃないか」「いや、相手の男性がよくないんじゃないか」という、どちらの見方もできる作品にしたかったんです。ハナに「わかるわー」と思えば相手に腹が立つし、「こういう女は嫌だ!」と思う方もいる。自由に感情を動かしていただくことが、読み続けてもらう力になるのではないかと思いました。
幸せを感じること自体には性差はない
――物語の中盤からは、もう一人の主人公としてリクが登場します。この構成は、当初から決まっていたのでしょうか。
ひさまつ:当初はハナのパートで終わる予定でしたが、ネームを提出した段階で、もう少し膨らませて描かないかというお話をいただいたんです。
ただ、ハナが5人に会ってもうまくいかず、10人に会ってもだめとなると、「ハナ自身にも原因があるのでは」と感じる方が増えてしまいますよね。そこでハナの話はいったん区切り、後半は男性のリクを主人公にしました。
女性がいつも傷つけられ、男性はいつも傷つける側にいる、という構造にはしたくなかったんです。男性も同じように傷つき、異なる角度から苦しむことがある。幸せを感じること自体には性差がなく、男性が悪いことも女性が悪いこともあっていいと思いました。
――ハナやリクが出会う人物の順番にも、意図があるのでしょうか。
ひさまつ:かなり商業的に考えています。最近の漫画作品は、最初の1話から3話ほどが無料になることが多いので、そこにはまず多くの方がイメージしやすい人物を置いた方がいい。
ハナと相原は、いちばん「いそう」な組み合わせ。その次には、相原に傷つけられたハナが求めそうな、正反対の男性である筧(かけい)を配置しました。3人目まで来ると変化が欲しくなるので、ジュダとの女性同士の関係を描く。リク編の最初に真里亞を置いたのも、多くの方がイメージしやすい人物だったからですね。
――なかでも聡太は、それまでの相手と比べて“普通”に見えるからこそ、生々しさを感じる人物でした。
ひさまつ:際どいキャラクターが続いていたので、一度、普通のキャラクターで落ち着く必要があるのかなと思ったんです。このままでは、次に殺人鬼が出てきてもおかしくない流れでしたから(笑)。
一度、“普通の地獄”に戻したというか、いちばんリアルにしました。格好よくて、すごく嘘つきな人。優しい振る舞いや焦っている様子に、作り込まれていない抜け感がある。ハナがそこから「この人は本物だ」と感じてしまうような人物です。
――さまざまな人物が登場するからこそ、あえて詳しく描かなかった部分もあるのでしょうか。
ひさまつ:そうですね。たとえば、登場人物の名前もフルネームでは出していません。一話ごとに登場する人物が変わるので、物語に必要のない情報まで載せると、読んでくださる方を混乱させてしまうかもしれない。そこで、あくまでハナから見えている一面に絞って描きました。
他の人物たちが実際に何を感じていたのかは、ハナにはわかりません。読んでくださる方にも、描かれた言動から感じ取ってもらう形にしています。
その分、名前から受ける印象は大切にしました。たとえば、相原は出席番号が前の方で、プリントを後ろへ流しているような……気の弱そうないい子だろうなとか。ジュダは芸名にも聞こえますし、とりあえずタダ者じゃなさそうですよね(笑)。名前が持つイメージを、ある意味では記号のように使っています。
当初は違う結末だった?
――人物のすべてを説明せず、受け取り方を委ねる姿勢は、物語の結末にも通じているように感じます。最終話はどのように決まったのでしょうか。
ひさまつ:実は、最後にかなり直しています。当初は、もっと不穏な空気が残る終わり方を考えていました。
歴代の相手役たちが日常を過ごすなかで、男女の遺体が見つかったというニュースが流れている。誰も気に留めず、その男女がハナとリクなのかもわからないまま、周囲の人たちの日常だけが続いていく……という案でした。
一方で、編集部からは、もう少し救いのある形にしてほしいという意見がありました。ただ、ハナが別の男性と幸せになると、リクともうまくいかなかったという別の物語になってしまう。そこで、ニュースの男女はハナとリクではないかもしれず、ふたりの関係もわからないまま、街のなかへ消えていく現在のエンディングを提案しました。
――「いい人はみんな誰かのものなの?」など、ハナたちのモノローグも印象に残ります。
ひさまつ:自分では、あまり特殊なことを書いている感覚がないんです。「あんなに格好いいんだから、彼女がいないわけない」「あんなにいい人なら、人のものに決まっている」といった話は、日常でも出てくると思うんですよね。
だから、多くの方が普段感じているものと同じ言葉をキャラクターに入れるようにはしました。
――作品タイトルの『ガールフレンド』は、いつ頃決まったのでしょうか。
ひさまつ:ジュダの話を描いていた頃です。それまでは仮タイトルでした。ハナは、ずっと“ガールフレンド”として生きている女の子というか。女友達でもあり、彼女でもあるという曖昧な言葉のなかで生きています。内容にも合っていたので、タイトルに決めてからは、物語にも少しずつ引っかかるようにしていきました。
――『ガールフレンド』を描くなかで、今回ならではの挑戦になったことはありますか。
ひさまつ:オムニバス形式ですね。読切感が強いので、まだ広く知られていない作家が挑戦するには、商業的なリスクもある形式だと思います。
私は海外ドラマが好きで、1話ごとには完結していても、続けて見るとキャラクターの人生が一本につながる作品に惹かれるんです。今回の作品がひとつの実績になれば、ほかの作家さんもオムニバス形式に挑戦しやすくなるのかなと思っています。
――ちなみに、海外ドラマのどのようなところに惹かれるのでしょう?
ひさまつ:売れた時のために、無理に続きを残そうとしていないところですね。日本の作品では、作品によっては続編を作れるように設定を残したり、今は回収しない要素を見せたりすることがあります。ただ、それが作品にとってノイズになる可能性もあると思うんです。
私はまず、一本の作品としてきれいに終わらせたいんです。続きを望んでくださる声が多ければ、その時にどこが支持されたのかを見ながら考えればいい。完結したはずなのに、あまりにも多くの方が熱望してくださったからセカンドシーズンを作る、くらいがいいのかもしれません。
――一話ごとに物語が大きく動く構成は、縦型ショートドラマとも相性がよかったように感じます。映像化にあたり、先生から何かリクエストされたことはありましたか。
ひさまつ:それが、特になく……。内容を自由に変えてもいいですし、キャラクターを変えたり、別のキャラクターを登場させたりしても構いません、とお伝えしたくらいです。
私は国内ドラマやメディアミックスに詳しいわけではないので、基本的にはお任せするのがいいだろうと考えていました。もともと「餅は餅屋」というタイプで、私は漫画の分野でできることをやり、映像はその分野のプロフェッショナルにお願いした方がいいと思っています。
大切な作品ではありますが、私だけのものではなく、編集部と共同で管理している商品でもあるので。媒体が変われば、見せ方が変わるのは自然なことだと思っています。
現在の“職業:商業漫画家”スタイルが確立したきっかけになる子供時代
――良い作品を作ることと、広く読者の方に届けるための設計。その両方を強く意識されているように感じます。表現をめぐる規制や配信の仕組みも変化するなかで、今後、電子コミックにはどのような作り方が求められていくと思いますか。
ひさまつ:作品の面白さを保ちながら、規制や配信の仕組みに合わせて見せ方を考える力が、これからの作家にはより求められると思います。たとえば、無料分で読 める冒頭に過激な表現を入れにくい場合の対処法や、単話配信でのキャンペーン施策が打ちやすいストーリー展開、アプリ・携帯の端末読みへの配慮や紙単行本への フックの作り方など。 作品の持ち味をなくすのではなく、レギュレーションのなかで魅力が伝わる構成を考えるということですね。
また、連載開始までに複数話を描きためる形式では、読者の反応がないまま最後まで走り切る根気や馬力も求めるんじゃないかな、と。「面白ければいい」だけではないということは、最近特に感じています。
――ひさまつ先生の、そうした作品を届けるための視点はどのようにして養われてきたのでしょう?
ひさまつ:今になって振り返って考えると、子どもの頃からだと思います。 作文や絵のコンクールに片っ端から応募して、賞品を集めることが好きでした。
審査員や過去の受賞作を調べて、「この人が審査するなら、大気汚染より水質汚染を描こう」「前年の受賞者と題材がかぶらないようにしよう」と考えていたんです。欲しいのは参加賞のボールペンではなく図書券だったので(笑)、子供ながら上位に入る方法をずっとリサーチしていました。
その感覚がこうして漫画家になってマーケティングを意識する今に響いていると思います。編集部が見出しに使いやすい台詞やモノローグを入れ込んだり、バナーに使えるようコマを横長にするなど、必要になった時に役立ててもらえる状態の原稿を用意しておく感覚です。
――最後に、原作を読んできた方や、ショートドラマをきっかけに本作を知った方へメッセージをお願いします。
ひさまつ:漫画を読んでいなくても楽しめるショートドラマにしていただいているので、まずはご自身が触れやすい媒体で楽しんでいただければと思います。漫画とドラマの表現の違いを比べるのも面白いかもしれません。
今こうしてショートドラマ化の機会をいただけたのは、時にはムカつきながらも、作品を読み続けてくださった方々のおかげです。以前から知ってくださっていた方には、「まさしく皆さんのおかげです」とお伝えしたいですね。
作品を作っている時から、「これは低評価レビューがつくかもしれません」と編集部には話していました(笑)。もちろん楽しんでいただけたら何よりですが、「二度と読むか!」と思うほど感情を動かされたのであれば、それも作品を受け取ってくださった結果のひとつだと思います。共感したことも、納得できなかったことも含めて、率直な感想を寄せていただけたら嬉しいです。
◾️作品情報
『ガールフレンド』
作者:ひさまつえいと
出版社:CLLENN
作品ページ:https://1-oshimanga.com/p000115/
◾️ドラマ情報
『ガールフレンド』
配信日:DMM TV / DMMショートにて独占配信中(全30話)にて全30話独占一挙配信中
出演:本郷柚巴/福吉大雅/白戸達也/高崎かなみ/畠山真弥/佐藤優太
原作:ひさまつえいと『ガールフレンド』(CLLENN)
監督・脚本:西川達郎
制作プロダクション:合同会社キノママ
視聴URL:https://tv.dmm.com/shorts/detail/?season=n775ycod64godu97kwth9xj11
1〜14話無料公開中
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