なぜ『名探偵マーニー』は今、ミーム化したのか? 12年の時を経てランキングを席巻する奇作のポテンシャル
「日当は5千円、経費は別で、マーニーにおまかせを」が決め台詞のマーニーは、探偵の父親の影響を受け、学校で探偵業を営む女子高生。彼女の元には、行方不明者の捜索や嫌がらせ犯の特定など、多種多様な依頼が舞い込む――。
5月中旬、AmazonのKindleストアにて、木々津克久による漫画『名探偵マーニー』の各巻99円セールが開始された。本作は2012年から2014年にかけて「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載され、全11巻で完結した作品だ。過去作の電子セールは日常的に行われているが、本作においては「お得なキャンペーン」の枠を超え、SNS上で爆発的な口コミが連鎖する「ミーム化」へと発展。一時はAmazonのコミック売れ筋ランキングで上位を独占するなど、大反響を呼んでいる。
秋田書店の総合Webマンガサイト「チャンピオンクロス」の公式Xもこの動きには驚いたようで、「10年以上前の完結作なのに突如ランキング異常値を叩き出してる…」とポストしているが、なぜ『名探偵マーニー』はこれほどまでの熱狂的なムーブメントを引き起こしたのだろうか。
チャンピオンクロス X(@championcross)より
ブームの引き金こそ「全巻まとめ買いしても約1100円」という安さだったが、一過性のセール情報に留まらず突如ミーム化した背景には、作品特有の“不穏な切れ味”がある。
本作は『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』とは違い、犯罪のトリックよりも、なぜその現象が起きたのか、犯人の動機は何かという点に主眼が置かれる。特徴的なのは、1話完結という短い分量の中に日常の怪事件に潜む人間の“ありえそうな異常性”が高密度かつ簡潔に収められている点だ。子どもを誘拐しては短時間で解放していた犯人の驚きの理由や、知らない人の結婚式に勝手に参列するのが趣味の親友、日常のストレスから無意識に二重人格の生活を送る女性、病床の少女のために10年前からマジックの仕込みを行う男など、常軌を逸した人物やその心理が次々と紹介される。こうした“普通とは違う”人々が、作中では排除されることなく身近な存在として容認されているところも、多様性が認められる令和の読者に刺さった要因だろう。
ネット上では「時代がマーニーに追いついた」「いい話かと思ったら、最後の1ページで人間のドロドロした狂気を見せてくる」「犯人やマーニーの周りにいる人が全員やばい」「この町には住みたくない」「癖が強すぎるやつしか出てこない」といった感想が聞かれ、作品のインパクトに衝撃を受けた人が続出。結果として大きな潮流へと繋がり、未読層の好奇心を刺激してさらなる購入の連鎖を生み出している。
長い歴史を持つ「週刊少年チャンピオン」には、誰もが知るヒット作の影に隠れて埋もれていた“エッジが効いた良作”も多い。今回の再評価は過去作が効率的に掘り起こされた象徴的な事例と言え、漫画ファンの間では、未だ電子書籍化がなされていない他の秋田書店作品への期待も聞かれる。
12年の時を経て大バズリしている本作。この奇妙でどこか優しい怪奇ミステリーの世界を、その目で確かめてみてはいかがだろうか。